◇平野富雄(ひらの・とみお)著『源泉湯宿』
(朝日旅行☎03-6858-9815/800円税別)
日本源泉湯宿(げんせんゆやど)を守る会(深沢守会長)の編集委員会が監修した。
筆者は同会名誉会長で神奈川県温泉地学研究所長の経歴を持ち、温泉や地下水、岩石などの化学分析に詳しい。
長年の研究で全国の源泉利用状況をつぶさに調べ、施設が掲げる温泉分析書の不備を指摘するなど湯宿のレベル向上の指導を続けている。
源泉は「地中から湧出する源の温泉」と定義し、その源泉を「集客定員に見合う量を引き湯し浴槽に掛け流している宿」を源泉湯宿と呼ぶ。
古くから多くの人びとが親しんだ「掛け流し」こそ本物の温泉でありわが国固有の温泉文化という。
2004年夏の長野・白骨温泉の入浴剤混入など「温泉偽装事件」を契機に環境省は施設にそれまでの成分掲示のほか加水・加温・循環ろ過などの有無の表示を義務づけたが、筆者はこの新しい表示義務が温泉の適正な利用を大きくゆがめたと指摘し、行政自らが掛け流し以外の加水・加温・循環など「本物とは言えない温泉」を公認し正当化させる結果になったと嘆く。
さらに一般に温泉施設は温泉三要素「湧出量、温度、成分」のうち重要な「量」の掲示が欠けており、湯量不足で衛生管理が気になる宿や、まるで淡水のような浴槽もあるという。
量を無視した大規模掘削で源泉が枯れると警鐘を鳴らし、温泉法などいろいろな規定の不備も指摘し情報開示を求めている。
守る会は宿泊定員数と利用者1人当たり源泉利用量、主な浴槽の供給量など表示する。
本書は会員宿40軒の温泉分析書を一挙掲載。
専門的な記述や詳細なデータも盛り込み、温泉を開業・改良する人たちの貴重な指南書ともなっている。
深沢会長は山梨・奈良田温泉「白根館」主人で、鶴の湯(秋田)、平の高房(栃木)、山芳園(静岡)、高見家(同)、笹屋(長野)、長座(岐阜)、槍見館(同)、水明館佳留萱山荘(同)などとともに旅ペン会友。
(文・林 莊祐)
=「旅びと」2016年1月号掲載