◇芝田真督(しばた・まこと)著『神戸懐かしの純喫茶』
(神戸新聞総合出版センター☎078-362-7140/1200円税別)
「純喫茶」はこの本のタイトル通り懐かしい響きがある。
書評子は学生のころ純喫茶によく入り浸った。
ケータイが無い時代にガールフレンドや仲間たちと待ち合わせは駅か喫茶店が主流だった。
店内はほの暗い明りにクラシック音楽が流れ、木製の椅子とテーブルに、ゆったりとコーヒーの香りを楽しみ語らい、くつろぎの時を過ごす。
昨今のビジネスライクにも見えるコーヒー店とは趣きが違う、そんな純喫茶に魅せられた神戸在住の著者が地元の店々をこまめに取材し豊富な写真付きでまとめた。
日本初には諸説あり。
神戸元町商店街にいまも営業する「芳香堂(ほうこうどう)」は明治11(1878)年に「日本で最初の喫茶店を開業。日本初の珈琲が飲める喫茶店第一号」とうたう。
一方東京メトロ・湯島駅近くに「日本最初の喫茶店「可否茶館(かひさかん)」跡地」と書かれた碑がある。
レンガを積んだ四角柱の上に大きなコーヒーカップを乗せたユニークなモニュメントで、こちらは明治21(1888)年開店と記す。
いずれにしても著者は「日本初という歴史的な出来事に必ず名前が挙がる神戸」と神戸っ子の心意気を見せる。
ネットのタウンページを調べたら神戸市内に喫茶店・カフェは1200軒を超す。
その中で従業員多数の店から主人1人で賄う店まで「たまたまご縁があった」64店を選んだ。
これまで『神戸立ち呑み八十八カ所巡礼』『神戸ぶらり下町グルメ 決定版』『神戸おとなの美男美女食堂』など地元本を出す。
実に多くの店を訪ねた。
喫茶店も飲み屋もグルメも著者が毎日のように通う行きつけはどこだろう。
(文・林 莊祐)
=「旅びと」2013年3・4月号掲載