◇早内高士(はやうち・たかし)著『おはよう おかえりやす』
(京都新聞出版センター☎075-241-6192/1600円税別)
「六女将の魅せる和のおもてなし」と副題にあり、京都を代表する6軒の和風旅館――柊家、炭屋旅館、八千代、嵐山辨慶、松園荘保津川亭、花伝の女将(おかみ)にスポットをあてる。
京都在住50年を超すベテラン記者の著者が地域性や創業年次、経営規模などから独自の判断で選んだ。
豊富な取材経験から、この「京都に生息する」女将たちを「まか不思議で、貴重な人種」と見立て、「生きた文化遺産」と描き出す。
「何か別世界の、近寄りがたい人種に映っているのではないか」との思いを捨てきれず、この本を企画し「その正体の解剖を試みた」という。
女将の美しい着物姿の内側は、裏方の板場や若い女性を率いて多彩な客をもてなす「凛(りん)としたリーダーシップの持ち主」と映り、豊富なカラー写真(撮影・山下幸作)で「お客様に魅せる女将の表面」(2章)と「見せない女の素顔」(3章)で裏表に触れる。
6女将は座談会で口々に「和風旅館の良さはまだまだ分かってもらえてない」「ホテル志向になって」「ちまたには安い京料理店が増え」「プラスチックのお盆にちょびちょびと5、6種類の品数。これが京懐石と思われてはつらい」などと嘆く。
心のもてなしを和風旅館の最大の売りとし、しぐさや立ち居振る舞いなど日本女性の美意識を集約し「女のすべての感性を出して」「日本人の心を伝えていくのが女将の役割」と胸を張る。
ネットで外国人や若い人の「一見(いちげん)さんがどんどん予約できる時代」に和風旅館はどうなるか、女将の「裏面にももっと迫りたかった」と著者が言うように一層掘り下げた次作の執筆を楽しみにしたい。
(文・林 莊祐)
=「旅びと」2013年5月号掲載