◇中尾隆之(なかお・たかゆき)著『日本百銘菓』
(NHK出版、☎0570-000-321/1000円税別)
日本旅のペンクラブの代表会員である著者は日本全国の銘菓に詳しい第一人者だ。
フリーライターとして40年間にわたって年100日余り、2、3泊の旅で宿場や門前、城下町など古い街並みを好んで出掛け、行く先々でめぼしい菓子を見つけて、賞味した品は5000種近くになるという。
「無類の甘党」と自認する、けた外れの菓子好きだ。
旅の土産として菓子は手軽に買えて持ちやすく配りやすい。
いただくほうも調理の手間無く、すぐ食べられる。売り場の半分以上も菓子が占めている土産店は少なくない。
伝統的な銘菓に加え新しい商品が続々生まれ、何十万種類にも上ると著者はみる。
その中から「百名山」にならって「百銘菓」を選ぶのは難儀な作業で、選びに際し7つの基準を考えた。①歴史風土など地域性②老舗らしい風格品格③日持ち④風味と清潔感⑤大きさ重さなど見栄え⑥人気や話題性⑦個性と希少性。土産にふさわしい菓子を選ぼうと、当日賞味などをうたう日持ちが短い菓子は除いた。
さらに「死ぬまでに食べたい絶品」、「迷わず選びたい出張土産」、「知る人ぞ知る実力派」、「和洋折衷が楽しい新感覚」、「唯一無二のユニーク銘菓」などといった著者の思いも込めて9つの章に分類して紹介した。
それぞれ店まで行って、多くは取材と名乗らず買い求めて品定めするので「店への義理やしがらみはまったくない」という。
最後の章は「本当は教えたくない」と言いつつ愛してやまない、味わい深い10の土産銘菓を明かす。
いずれも美しいカラー写真付きで甘党気分をそそる。
持ちやすい新書判で旅の友に便利だ。
掲載銘菓すべてに洒脱な解説文が付く。
発祥やいわれに諸説ある銘菓もあるが、著者は各店のカタログ、しおり、ホームページなどを丹念に読み解き、秘伝の製法、まつわるエピソードなどにも触れた。
落語「饅頭こわい」を思い出すまでもなく、掲載された銘菓はどれもすぐにいただきたくなる仕立てだ。
辛党寄りの書評子でさえ、店を訪ねたり注文したり、菓子に別腹がうなる誘惑にかられそうだ。
これだけ甘いもの好きの著者なのにメタボとは縁なく、すらりとした体形がうらやましい。
(文・林 莊祐)
=「旅びと」2018年10月号掲載