ちょっと意外な感に打たれた。中国・マカオのカジノリゾート、「シティ・オブ・ドリームス」。そのPR担当者は、こう言ったのだ。「日本からはカジノ抜きで来ていただくお客様を期待しているんです」。
沢木耕太郎の『深夜特急』の印象が強いせいか、マカオと言えばカジノでしょう、と思い込んでいた。だが、もともと博才(ばくさい)はまるでない。〝カジノ抜きのマカオ〟ってどれほどのものか、それを見たくて出掛けた。
度肝を抜かれたのは、「ザ・ハウス・オブ・ダンシング・ウオーター」のステージだ。中国の歴史・文化を背景に叙事詩とラブストーリーで織り上げた水上スペクタクルショー。いまマカオで一番人気という触れ込み通り、2000席の専用円形劇場は満員だった。
中央には直径20㍍、水深8㍍、1700万㍑の水をたたえた巨大プール。そこを目がけて高さ20数㍍の天井付近から、空中ブランコから、男も女も次々に身を躍らせる。
気が付くとプールは固定床に変わっていた。その上で群舞、アクロバットが続いた後、噴水の幕が辺りを覆い隠した次の瞬間、舞台は再び元のプールに。すぐにまた空中ダイビングの競演が…。不思議さとスリルで思考がついて行けない。
制作費は20億香港㌦(約260億円)。公演は約1時間半。最高難度の技を矢継ぎ早に演じるのは世界の一流パフォーマー約80人。2010年以来、世界最大のウオーターショーに息をのんだ人は250万人を超えた。
「ドラゴン・トレジャー」はファンタジーショー。映像の竜が幸運と富をもたらすドラゴンボールを求めて躍動する。一昨年お目見えした「タブー」は世界的アーティストらによるキャバレーショー。官能的なダンス、音楽、歌が1時間以上ノンストップで続く。当方には少々刺激が強過ぎたか、くたくたになった。
リゾート内には高級ホテルが3つ、ミシュランの星付き店を含む各国料理のレストラン、極上のエステサロン付きスパ、ブランドショップが並ぶモールのほか、最先端の流行を発信するホットスポット「ソーホー」も。
もちろん、博才と資金に恵まれた向きには、ラスベガスをしのぐ巨大カジノが勝負の時を待っている。が、今回は〝カジノ抜き〟の約束だから、あえて触れない。
翌日はマカオの街に出た。ここは16世紀半ばポルトガルが居留地とし、その後の中国植民地化の足掛かりとした地。イエズス会の宣教師らは、ここから戦国時代の日本へ向かった。「大河ドラマ『軍師官兵衛』でも、南蛮貿易とキリシタン布教を巡る信長と宣教師オルガンチノの駆け引きが面白く描かれてましたよね」とガイドの轡田洋子さん。千葉・鋸南町の出身で、マカオ在住は30年近くになるという。
聖ポール天主堂跡は世界文化遺産「マカオ市街地区」を代表する名所。火災に遭ったため正面壁だけが残るが、存在感は抜群だ。近くのセナド広場はモザイクの石畳と周囲の欧風建築が美しい。どちらも中国本土や香港からの客で人、人、人の渦。観光で生きる街の活気と活力に気おされた。
ガイド
あし
羽田空港―香港国際空港は約4時間半。ここからマカオまでは高速フェリーで約1時間。マカオの時差は、日本時間プラス1時間。
あじ
『北京ダック』=「シティ・オブ・ドリームス」内の名店「ベイジン・キッチン」の名物料理。オープンキッチンになっていて、シェフがかまどで焼くのが見られる。アメ色に焼き上がったダックを目の前で切り分けてくれる。皮だけでなく肉も食べるのがマカオ風。事前予約がベター。ハーフサイズ(約2人前)から注文可。予算は1人前5000円程度とリーズナブル。
問い合わせ
マカオ観光局日本地区マーケティング・リプレゼンタティブ電03(5275)2537。シティ・オブ・ドリームスのホテル、ショーへの予約はwww.cityofdreamsmacau.comから。
ただいま
15年前の中国返還後も独自の発展をして来たマカオ。最大の産業は観光だが、大半がカジノ収入だ。昨年のカジノ税は約1兆6000億円。おかげで、税金も教育費、医療費も、ただ同然。「カジノ依存体質からの脱却」なんて本当に可能なのだろうか。
寄り道
「マカオの路地裏」
マカオ観光で忘れてならないのが街歩きの楽しみだ。世界遺産「マカオ歴史地区」には、狭いエリア内に22か所の史跡と8つの広場がある。セナド広場付近の表通りは歩くのも困難なほどの雑踏だが、通りを1本入ると、別世界のように静かな路地裏=写真。昔の中国の風情を残す地区の先にはコロニアル(植民地)風な洋館があるなど、マカオの東西融合文化を実感出来る。