中尾 隆之

例年のことながらうっとうしい梅雨空。加えて惨い震災、収束みえない原発事故、節電など晴れ晴れしない日々。「いい湯があるんだけど、風評被害で気の毒なんだ」との温泉通の友人に誘われて、福島の高湯温泉に行ってきた。

福島市街から西方へ、吾妻山山腹を右に左にくねる道をバスで40分ほど。道沿いに宿が点々とする温泉地の中心の共同浴場前で下車すると、風がひんやりと心地よく、鼻をつく硫黄の匂いもほどなく馴染んで、気持ちがふんわり和んだ。

共同浴場を運営管理する観光協会・旅館組合の話では、ここは標高750㍍。会津へ抜ける磐梯吾妻スカイラインの北入口に当たる。開湯400年以来、湯治場として賑わってきた。動力による汲み上げや加水・加温いっさいなしの天然湧出、自噴源泉。透明な湯をそのまま木樋で各旅館へ配湯しているという。

宿に入る前にいくつかの風呂を見て回った。安達屋の大露天風呂“大気の湯”、吾妻屋の岩組みの外湯“山翆”、ひげの家の檜香る“滝の湯”など入ってみたい風呂ばかり。泊まった旅館・玉子湯には茅葺きの湯小屋“玉子湯”など趣のある風呂が7つもあった。

9軒の宿はどこも空気に触れて白濁する硫黄泉がたっぷり掛け流し。泉温は自然に冷ましたもので、ほんのり熱めの42~43℃。“生”の湯だけに皮膚や筋肉などいろいろに効きそうだ。
宿の喫煙所で言葉を交わした客は南相馬からの避難者。原発から75㌔以上も離れているので、旅館組合で毎日計測する放射能線量は極めて微量だという。

そういえば高湯の夏の気温は福島市内より4~5℃低いとのこと。節電で暑さ我慢になりそうなこの夏。温まって、涼やかでのんびりできる高湯への思いは気温につれて高まっている。

交通=東北新幹線・東北本線福島駅からバスで約40分
問い合わせは高湯温泉観光協会=電話024(591)1125

2011.7.6 交通新聞より

中尾 隆之