第10回「旅の日」川柳は、5月16日に東京都文京区の椿山荘で開かれた「旅の日」の会において発表。大賞ほか、各賞が決まりました。投句数は過去最高数でした。句をお寄せくださいました皆様、あらためて「ありがとうございました」。

今年の募集は年始から開始しました。締め切りは例年通り3月31日。ちょうど3か月の募集期間です。旅ペンのHPでお知らせするとともに、月刊「公募ガイド」や「懸賞なび」への募集記事掲載、ウエブでは応募サイトの「登竜門」で募集したのも例年通りです。

常連の投稿者が早々と応募してくるのも恒例となりましたが、今年の応募傾向で顕著だったのは、中学生と高校生の増加です。中学生は22校、2481人、高校生は15校、944人にのぼり、580人が応募した関西の中学校は投稿用紙だけで5.5㎝の厚さになりました。そのためか、今年の受賞者には中学生が3人も入りました。中・高生の句を、人生経験のある一般の応募者と同列に評価するのは不公平かとも思いましたが、そんな懸念もなかったようです。一般を含めた応募総数は6147人、1万3966句。地域は稚内から屋久島まで、年齢は12歳から90歳に及びました。

句の傾向としては外国人観光客が多いことを詠んだものが相変わらず見られ、「中国に来たかと思う箱根路で」。旅ペン会員も各地の旅先で実感ですね。秘境ブームの句もあり「音に聞く秘境は何処だ人の波」は、我々にも責任ありそうな。
流行語で目立ったのは「インスタ映え」でした。もちろん「そだね」「忖度」も頻出し、傑出した作品は優秀賞に選ばれました。中学生の句には「マジ卍」という当方には使い方のわからない言葉もありました。中学生が父親の立場を皮肉った「パパの役、持つ、待つ、並ぶ、あと運転」は、同情もあるのでしょうか。若いだけに、これからの人生を旅ととらえた句も多く、「十四歳人生の旅はまだ長い」「持ち物は夢、希望だけ、旅立とう」とのことでした。

「旅の日」川柳も10回を数え、定着して応募者も増えましたが、同時に面白い句、読み応えのある句が増えたという思いもあります。旅の見方、考え方に、多方面からアプローチしている句が多くなった気がします。今回も例年通り中尾隆之さん、柳澤美樹子さん、中元千恵子さん、それと私の会員4人で第一次選考を担当しましたが、選ぶ楽しみがありました。最終選者は昨年までと同じ全日本川柳協会理事の江畑哲男さん。休暇村協会と栃木県鹿沼市鹿沼商工会議所からは今年もご協賛をいただきました。紙上を借りて御礼申し上げます。

以下に入賞作品と最終選者の選評を掲載します。
(「旅の日」川柳担当 土井正和)

【大賞】

元号を二つ跨いだ旅プラン

田崎信(東京都三鷹市 男 71歳)

【優秀賞】

そだねーも忖度もない一人旅

長川伸介(兵庫県宍粟市 男 61歳)

SLで子供になったお父さん

根本真理彩(千葉県四街道市 女 13歳)

その土地の美味しい物を全制覇

澤下朱子(兵庫県加古川市 女 13歳)

旅先でいつものコンビニ探してる

杉原大介(群馬県伊勢崎市 男 42歳)

GPS付けて出したい一人旅

傳田不二男(東京都西東京市 男 81歳)

【鹿沼賞】

旅先で特売品を見てる母

赤田愛優美(兵庫県加古川市 女 14歳)

【選 評】

(一社)全日本川柳協会理事
獨協大学オープンカレッジ講師
江畑 哲男

膨大な数の投句があったようだ。事務局によれば、応募者六一四七名、集句数は一万三九六六句にも達したという。
中学生や高校生からも、学校単位・クラス単位で応募があった。
中学校からは、二二校、二四八一名。
高校からは、一五校、九四四名。
いずれも過去最高の応募数だと思われる。
まずは、応募された皆さんと関係各位に心からの御礼を申し上げたい。有難うございました。

川柳はなぜ共感を呼ぶのか?

改めて考えてみよう。

現下の「川柳ブーム」は、今から約三〇年前の「サラリーマン川柳」に始まる。当初は生命保険会社の社内報だけの存在だった川柳を、一般公募化することで社会的反響を呼ぶことになった。この場合の「川柳」はあくまで営業目的にしか過ぎなかったのだが、顧客に応募を促し、顧客とのコミュニケーションツールとして活用し、さらにはメディアに露出するに至って、爆発的なブームを招来していくのである。

内容的にも人々の心を捉えていった。何しろ応募者の大半が現役のサラリーマンなのだ。言いたいことや言いたくても言えなかったことを、川柳と称する五七五にさらけ出していく。作った側も読んだ人も、「その通り!」と膝を打ちたくなるようなホンネが次々と吐露される。そんなホンネに巡り合えることが、バブル崩壊後のサラリーマン層に支持された。かくして、空前の「サラ川」ブームが生まれていったのだ。

しかしながら、「サラ川」の作者も読者も「素人」であった。サラリーマンの悲哀や時代の様相には敏感であっても、特に川柳の表現に精通している訳ではなかった。当然と言えば当然。従って、表現や仕立て方は雑だった。短絡的な言葉遊びに走ることも多く、質の低いユーモアや一過性の笑いに終わってしまう恨みが残念ながら拭えなかった。詩的情緒となると、問題にならないレベルであった。

川柳は面白い。読者の皆さんの共感を呼ぶことは重要だ。その一方で、表現や情緒も大切にしていきたいものである。私たちの「旅の日」川柳は、そんな立ち位置にあるのではないか。

では、今年の入選作品をご覧いただこう。

入選作は、読者の皆さんの共感を呼ぶに違いない。と同時に、作品の質にもご注目いただきたい。何げない発見やさりげないユーモア、旅の実感や情緒に裏打ちされた作品に多く巡り合えるものと確信している。膨大な応募者の中から選りすぐられた、さすがの入選作と思っていただけるのではなかろうか。

そんな一句一句を、皆さんとご一緒に鑑賞していける幸せを今年も味わうことができた。本当に有難うございました。

【大賞】
元号を二つ跨いだ旅プラン(田崎信)

 タイムリーで余韻余情溢れる作。一見事実を並べただけの表現に見えるが、その中に深い喜びを垣間見ることが出来る。「いま」でなければ創れない傑作だ。

優秀賞(5句、順不同)
そだねーも忖度もない一人旅(長川伸介)

流行語を巧みに採り入れた逸品。リズムも表現も落ちついていて、なおかつ面白い。

SLで子供になったお父さん(根本真理彩)
誰でも子どもに返る一瞬がある。ましてSLだとなおさらだ。この句を読んだ素直な感想。「良いですねぇ~」。

その土地の美味しい物を全制覇(澤下朱子)
 やはり、若者の作品でしたか! 「全制覇」という用語が、いかにも現代的で新鮮だった。

旅先でいつものコンビニ探してる(杉原大介)
旅というのは特別な時間と空間を提供しているはずなのに、こういうことがままあるもの。作者の観察眼に脱帽。

GPS付けて出したい一人旅(傳田不二男)
こちらはシニアの作品、デシタ。一人旅に出す大人の側の気持ちが、素直に表現されている。「GPSを付け」たい、という点がユニークだった。

鹿沼賞(一句)
旅先で特売品を見てる母(赤田愛優美)

「ある、ある!」と思わず膝を打ちたくなる一句。何しろ特売品ですからねぇ。母親を観察する中学生の視線が素直で温か。こちらにも、「良いですねぇ」。

〈入賞作品〉(六十三句、順不同)

想い出の花を栞に旅日記

果織(埼玉県)

妻帰国カレー作って待つ夫
今育毛(埼玉県)

旅したい現実逃避したいから
荒井憂香(北海道)

復興を見たい見せたい旅がある
佐藤隆貴(福島県)

幹事して旅するための下見旅
吉田節夫(滋賀県)

旅の宿妻に忖度プチ豪華
森野幹子(兵庫県)

バスツアー起きているのはガイドだけ
澤山よう子(奈良県)

一人寝の旅には月がよく似合う
渡辺誠男(兵庫県)

混浴の湯煙払いメガネ拭く
山田秀雄(長崎県)

そだねーとやけに素直な旅の妻
大久保光子(新潟県)

女子力を詰めこみすぎて大荷物
普家小百合(埼玉県)

若き日の私に出逢う京都旅
鈴木由起子(埼玉県)

団体のガイドこっそり付いて行く
石川和巳(埼玉県)

一人旅できる頃には歩けない
長谷川進(京都府)

音に聞く秘境は何処だ人の波
山縣あゆむ(茨城県)

旅行先景色撮らずに自分撮る
古俣知桜里(東京都)

上野駅全て此処から始まった
宗健(兵庫県)

旅コーデ常より十は若くする
平松みち子(愛知県)

「ありがとう」何度言うやら老いの旅
夢子(大阪府)

爆買いのカネは天下を回してる
名古屋の山ちゃん(愛知県)

思い出は足に残った疲労感
小泉希結(山梨県)

方言を一つ覚える一人旅
北川順子(愛知県)

忘れ物日本の愛で持ち主へ
小林珠弓(愛知県)

旅行中気付けば私なまってる
加藤万弥(岐阜県)

旅すると福沢諭吉も旅に出る
渡邉花(大阪府)

旅立つ日いつもと違う心拍数
森雄輝(兵庫県)

テンションの差が激しいよ行き帰り
手束恵蘭(兵庫県)

思い出がスマホに溜まる旅帰り
徳永瑠菜(兵庫県)

運転手以外は眠る旅帰り
川崎楽水(兵庫県)

初海外カメラはいつもONのまま
寺田琴音(佐賀県)

名刺には旅人と刷る定年後
大福もち(神奈川県)

ふるさとの訛り持ち寄る湯治宿
高浜凡々児(神奈川県)

忖度で夫が誘う美人の湯
イナバウアーの白兎(千葉県)

インスタじゃなくてココロに映える旅
ほり・たく(福島県)

次は何処夫婦の会話復活す
ちずちゃん(愛媛県)

「ワンダフル!」言われなければ気づかない
角森多久哉(島根県)

帰ったらここに納税しようかな
セン=リュウ(埼玉県)

絶景を背にプロポーズずるいなぁ
しーしー(千葉県)

君と旅笑い話がまた増える
てっちゃん(京都府)

露天風呂映る満月掬いあげ
みのま(宮城県)

旅支度仕事も家事も圏外よ
日野江美(大阪府)

AIに旅の醍醐味わかるまい
れんれん(千葉県)

フルムーン絶景よりもまずトイレ
のすたる爺(福岡県)

インスタ映え意識しすぎて楽しめず
妖怪めんたいこ(福岡県)

外人に日本の穴場教えられ
昔のおじさん(岐阜県)

日本語に出会うと安堵温泉街
るるねこ(福岡県)

スマホには頼らずあえて迷い旅
羊男(東京都)

ジムよりも旅に足腰鍛えられ
ヨシトミ!(千葉県)

絶景もスマホの中に押し込まれ
紀三(東京都)

スマホより性に合っている紙の地図
ひぐらし(奈良県)

多国語を読み分ける神ゆれる絵馬
流水(神奈川県)

浮かぶ顔忖度をして買う土産
K・U(福島県)

富士山に居座る雲とにらめっこ
朋音(東京都)

口コミでまずは世間を味見する
こまっちょ(埼玉県)

お帰りと待ってたような鄙の街
風月(東京都)

駅弁を選ぶ手急かす発車ベル
あーやん(北海道)

授業より旅で覚えた日本地図
逆ペリカン(大阪府)

凝りすぎてどこかわからぬ旅写真
かきぴー(石川県)

自撮り棒だけが伴侶の一人旅
マイケル釈尊(神奈川県)

百人のいいねを求めてひとり旅
くだらぬもの(兵庫県)

弁当をしだれ桜に覗かれる
ネジロ(広島県)

海外で妻の度胸を思い知る
光風雫(福井県)

窓側の席を取っても寝てばかり
佐藤邦道(千葉県)