第15回「旅の日」川柳 入賞作品と選評

第15回「旅の日」川柳 入賞作品と選評

第15回「旅の日」川柳。厳正なる審査を重ねた結果、入賞作品が決定いたしましたので発表いたします。
入賞作品に続き選評も記載しておりますので、併せてお楽しみください。

(応募総数:4457句)

【大賞】
 旅の帰路方言カタコトついてきた         クマだもん(熊本県熊本市 50代)

方言、訛を扱った作品は多かったがこの句は良かった。片言をカタコトと効果音で表して方言が子供のようにあとをついてくる姿が面白い。方言は手荷物にもならない最高の土産である。

【優秀賞】
 仕事から旅へと変える途中下車         さるり(千葉県松戸市 40代)    

藤子不二雄A先生の漫画で「さすらいくん」というのがある。まさに、それ。日常が嫌になったのか景色やにおいに惹かれてなのか無意識なのか。寄り道とは違い、はっきりと旅にしてしまうのがいい。誰しも思うストレートな句。

 しみじみとしみじみといいところだね        牧野きく(宮城県南三陸町 50代)

普通なら、なにがしみじみなのか書きたくなる。そこをあえて書かずに反復させ聞き手に丸投げ。それでも、頭のなかには情景が浮かんでくる。無駄がなく美しい。

 はしゃぐ友知らない街で知る素顔     ながやまきっちょむ(埼玉県さいたま市 20代)

意外な一面を知ることができるのも旅の醍醐味。コロナ禍で友達になった場合はなおさらで。逆にはしゃぐ方も今までの自分を脱却するための勇気ある行動かもしれない。でも、それがきっかけで絆が深くなる。場合もあるよね。

 窓ごしに過ぎる景色に感嘆符          白石由紀子(兵庫県尼崎市 50代)

移動している乗り物から再び同じ景色を見るのは難しい。しかも、アッというに過ぎる。それは絶景だけでなく、なにげなく外を見たときに驚きや目を疑う景色が目に飛び込んできて思わ「!」がでる。共有は難しいが、記憶には強く残る。完全に自分だけの宝物。

 盛り上がる旅行土産は失敗談             美穂(愛媛県松山市 50代)

師匠の好楽も常々言っている。旅の思い出で後々まで盛り上がるのは良い思い出より失敗談や悪い思いをしたときだと。その時は腹が立ったり情けなくなるが、笑いになればなにより。いい旅、楽しい旅は自慢に聞こえてしまうのがもどかしい。

【乳頭温泉郷賞】
 夫婦旅子宝湯にて古稀迎え         ちゃこ(埼玉県さいたま市 60代)

子宝と古希の対比が面白くわかりやすい。ただ、このご夫婦にお子さんがいるのかいないのかで感じ方も変わってくる作品。愛も哀もあり色々考えさせてくれる。どちらでも二人は仲良しであることは変わらないので温かい。

【入選作品】(59句、順不同)

ローカル線運転士とのツーマンカー
          小田恒樹(福岡県)

同窓と乙女に戻る古希の旅
         宇都宮京子(鹿児島県)

妻も古希遠めの散歩二人旅
           塩谷五郎(埼玉県)

旅の写真背景大きく私はどこ
          松村すず子(京都府)

これは何処?写真で辿る惚け防止
           原稿呆詩(宮城県)

女子トーク修学旅行の秘密の夜
           馬場真珠(岐阜県)

三日月と二人っきりの旅の宿
         しなやかーる(滋賀県)

春の旅花粉に先を越されたぜ
           小橋辰矢(岡山県)

病む夫を叱咤しツアー申し込む
           クレパス(茨城県)

旅先でよく道きかれるふだん顔
           えっつー(東京都)

果てし無く菜の花ひかる旅の朝
          松岡美枝子(千葉県)

食べ歩き行きたいお店定休
            牛込澪(群馬県)

青春と言い出しにくくきっぷ出し
           石井秀一(東京都)

少し荷をおろしたく来た旅の駅
           なまこや(千葉県)

一人旅おっと夫もいたんだわ
           リーフ(神奈川県)

趣味は旅無趣味の三年取り戻す
           宮のふみ(栃木県) 
 
寝台の窓へ飛び込む夏の朝
            おでめ(秋田県)

待たされて川の字もよしハネムーン
           げん一路(千葉県)

きっかけは聖地巡礼オタク旅
             樹希(奈良県)

さぁ旅行家族で探す接種券
           かにかま(福島県)

無人駅つつむ梅の香祖母の笑み
             mako(愛知県)

旅支度不安詰めたら大荷物
             清寿(愛媛県)

小旅行湖畔で妻と握り飯
            琵琶姫(大阪府)

故郷の空と訛りと湯につかり
            ちーま(千葉県)

特急の発車を待ってる缶ビール
          京わらんべ(京都府)

回遊魚旅のゴールは俺の腹
           光源氏(神奈川県)

春の旅ワクワクドキドキ福反応
           紙飛行機(大阪府)

グーグルも言葉失う大樹海
          小出淳一郎(大阪府)

どこ行こうナビに宇宙と入れた孫
           のほほん(福岡県)

反抗期の怒涛が凪いで親子旅
            すみれ(愛知県)

チケットが紙になっても愛おしい
            齋藤舜(福岡県)

知らぬ街知る人もなし手をつなぐ
             実弥(宮城県)

トンネルを抜けて窓から春が来た
            佐千子(愛知県)

山仰ぎ一時間後のバスを待つ
            はづき(愛知県)

発車ベル待てずに開ける缶ビール
            ハルル(東京都)

旅帰り荷物を解けば日の匂い
           老人生(神奈川県)

三世代浴衣肌けて腕ずもう
           正能照也(福岡県) 

女子会の旅というより老人会
            杉柳才(愛知県)

父の背に年輪を見た露天の湯
           鈴木俊彦(静岡県)

母の手を初めて引いた春遍路
            園田浩(熊本県)

ジェットバス空を飛ぶのか聞く子供
            瑠美(神奈川県)

若女将見て納得の美人の湯
            紗らん(北海道)

この杖が私の全国旅行支援
           すーざん(愛知県)

ゆったりとたまには連泊二逗留
        一粒のなおや(神奈川県)

「どちらから?」やっと話せる露天風呂
           巡礼通訳(和歌山県)

旅行社のカタログ以上海の色
           津川トシノ(大阪府)

脱衣所で下着も着けずマスクする
           きらきら星(神奈川県)

大鍋にカレーとおでんあと頼む
             たかちほ(高知県)

『カワイイネ』着物で旅行モテまくる
              豆大福(富山県)

コロナ禍は一人じめだったこの景色
               RON(福岡県)

満月にのぞき見された露天風呂
            はっちゃん(兵庫県)

聞きなじみない野菜ならぶ未知の駅
            ハイビッグ(京都府)

浜風を吸って電車のドア閉まる
             中村颯汰(愛知県)

対面がちょっと恥ずかし夫婦旅
               竜門(東京都)

方言が心の密でうつる旅
             雪丸太郎(熊本県)

旅すれば景色に色が付き始め
            望月サラダ(福岡県)

灯台でジミヘン聴いた一人旅
           野﨑吉一(神奈川県)

ひと夏の冒険語る日焼けあと
            くるみ(埼玉県)

どてら下駄カランコロンと湯をはしご
            晴旅雨読(三重県)

【選評】
三遊亭好の助
(落語家 五代目圓楽一門会 真打)

我々、落語家には「旅の仕事」といわれるのがある。主に新幹線、飛行機、特急などを使って行く仕事のことをいう。お陰様で色々な場所に行かせて頂いている。
その時に感じるその土地の空気、車窓からの景色、人との触れ合いに名物料理。仕事に行くときの高揚感は何年経っても、連日だとしても変わらない。落語の出来が悪かった時も心を穏やかにしてくれる。ただ、交通の発達でほとんどが日帰りになりトホホである。
そして、落語家は川柳を多用する。落語の枕といわれる導入部や場面転換、強調したいときに川柳を使う。
有名なところでは
  江戸っ子の生まれ損ない金を貯め
藪入りやなんにもいわず泣き笑い
女郎買い振られたやつが起こし番
他にも多数ある。短い言葉でお客さんに笑いや共感、当時の雰囲気を味わってもらうことができる魔法のようなものである。昔の人には感謝しかない。
昭和の名人といわれる師匠方も集まって「鹿連会」という会を作って川柳を詠んだ。
その影響か緊急事態宣言中に好楽一門ではリモートで川柳大会を行っていた。師匠に電話で伝え後日、結果が知らされる。安否確認も兼ねていたが、緊急事態宣言が解除されてもしばらく続いた。旅と川柳の二つなら落語家はもってこいだと思い、今回選者を引き受けた。
しかし、どうだろう。こりゃ、参った。どれもこれも甲乙つけがたい作品ばかりである。
ウフフと笑ってしまうもの、あぁいいなと感じるもの、そうそうと相槌を打つもの、くだらねーとのけぞるもの。どれも納得できるし、画が浮かんでくる。
悩みながらも楽しく選考できた。
選考方法として、応募された4457句から2回の選考を経て私に送られてきた約200句から20ほど選び、それに対してツッコミや妄想をして7句選ぶ。それを何日か行う。連日や日をおいて。
同じ人間が選ぶのだから毎回、同じのを選ぶかと思ったらそうではなかった。2日目から違った。そして、3日目も。
その後も読む時間や場所を変えて(自然と変わり)6回ほど行い、しっくりきたものを選ばせて頂いた。そこから大賞を選ぶのが困難だったが、最終的には直感と好み。邪道かと思われるかもしれないがこの方法しか浮かばなかったのだ。
全体的にこの3年近くのコロナ禍での生活のためか、自然とそれ関係の句が目立った。けれど、悲観的でなく前向きな句が多くなによりだった。そんな中、選考しながらも関係ない句でありながら勝手にそうなのではないかと想像してしまう自分が情けなく。知らぬ間に発想が感染してしまっていたと痛感した。
コロナ関係の川柳も今回までになるだろう。来年からは今まで通りの旅の川柳があふれているかと思うと楽しみでならない。
(応募者数1,702人、応募総数4,457句)

たくさんのご応募ありがとうございました。

第15回「旅の日」川柳 入賞作品と選評