第9回「旅の日」川柳 入賞作品
【大賞】
穴場の地インバウンドに教えられ
伊東慶子(長野県諏訪市 女性 48歳)
【鹿沼賞】
日本国自然いっぱいナイス四季
中町元紀(岡山県玉野市 男性 16歳)
【優秀賞】
別腹の別腹があるグルメ旅
横尾伸子(大阪府高槻市 女性 47歳)
「プレ金」で職場旅行がよみがえる
住野次郎(兵庫県宝塚市 男性 71歳)
ウミネコが見上げる高い防潮堤
堀ノ内和夫(奈良県奈良市 男性 69歳)
ゆるキャラが汗水たらす歴史町
りく・そら・ばあば(愛知県小牧市 女性 59歳)
月の数数えてみよと千枚田
あかり姫(神奈川県横浜市 女性 65歳)
【選 評】
(一社)全日本川柳協会常任幹事
早稲田大学オープンカレッジ講師
江畑 哲男
おかげさまで「川柳ブーム」が続いている。有り難い。今年の応募者には学生の比率が高かったと、主催者側より報告があった。嬉しいことである。
応募総数 2783人 6775句
中・高生 999人 2801句 学校数14校
「旅の日」川柳に限らないことだが、いわゆる「公募川柳」には、「素人」と呼ばれる方の作品が多い。ここで言う「素人」とは、川柳のファンだけれども、川柳結社に属していない方々。川柳句会に出席したり、川柳雑誌に投稿をするといった経験のほとんどない方々を指す。
こうした「川柳ファン」は、「俳句ファン」や「短歌ファン」よりその実数ははるかに多いものと、小生などは睨んでいる。
例えば、新聞の俳句欄。あの欄は、投句者や俳人以外にはあまり注目されていないのではないか? 専門家だけが読むページになってはいないか。そんな気がする。
ところが、川柳欄は違う。自身で川柳を作らなくとも、「川柳が好きだ」と仰る方。「川柳欄だけは読んでいる」、「結社に属したことはないけれど、ちょっと投稿してみたくなった」、などなど。そういう方々が非常に多いのだ。まさしく「川柳ファン」であろう。
専門的に申し上げれば、マスコミの川柳欄には少々問題がある。というのは、川柳人以外の方が選者になっているからだ。専門外の人が選者をされていることで、川柳に対する誤解や偏見の元にもなっている。この点はマスコミに苦言を申し上げたいところだが、この場でこれ以上言及はしない。
本題に戻ろう。
「旅の日」川柳も、「川柳ファン」によって支えられている。この点は間違いあるまい。従って、当欄の選の基準は明快である。第一に、分かりやすいこと。第二に、これは選者たる小生が心がけている点なのだが、時代を切り取っていること。以上、二点である。
いずれにしても、たくさんのご投句を有難うございました。では、ご一緒に川柳を楽しみましょう。
大賞〈一句〉
穴場の地インバウンドに教えられ(伊東慶子)
日本の魅力を外国の方から教わった、という作品は多く寄せられた。そういう時代である。大賞作品は、「インバウンド」なる言葉を採り入れた。そこがお手柄。
鹿沼賞〈一句〉
日本国自然いっぱいナイス四季(中町元紀)
若者らしい作品。「ナイス四季」といった言葉の使い方が、いかにも若々しくて新鮮だった。
優秀賞〈五句、順不同〉
別腹の別腹があるグルメ旅(横尾伸子)
旅と食事。この組み合わせも、たくさん寄せられた。優秀賞の作品は、「別腹の別腹」と表現している。この繰り返しがよかった。
「プレ金」で職場旅行がよみがえる(住野次郎)
「プレ金」、つい数カ月前からお目見えした言葉である。タイムリーな作品だ。なお、実際に「職場旅行がよみがえ」ったかどうかは問題としない(笑)。
ウミネコが見上げる高い防潮堤(堀ノ内和夫)
日本の浜辺の風景が変わりつつある。残念なことである。そうした気持ちを作者はウミネコに託した。
ゆるキャラが汗水たらす歴史町(りく・そら・ばあば)
ゆるキャラブームも続いている。「汗水たらす」と、歴史のある町でも一役を買っているらしい。
月の数数えてみよと千枚田(あかり姫)
格調高い一句に仕上がっている。月夜と千枚田のツーショットが見えるようだ。お見事!
入賞作品(五十五句、順不同)
- ちがう駅ちがう自分が歩き出す 夢屋(広島県)
- 石段に試されている寺社巡り なるほどマン(富山県)
- 年金の範囲で歩く小旅行 長谷川茂(茨城県)
- 旅の友バッグに詰めた好奇心 琵琶女(滋賀県)
- 二人旅妻の下僕になる覚悟 剣健(つるぎけん)(青森県)
- スマホでは通訳できない津軽弁 渡辺和則(静岡県)
- 完食後気づく写真のとり忘れ 三崎奈美子(北海道)
- 目的地よりも楽しい行きの道 川村陸(北海道)
- 一人旅したいと言いつつ二人がいい 佐藤彩音(北海道)
- 旅行先住みたくなるよなとこばかり 森山美瑠(北海道)
- 一人旅となりにきみがいてほしい 島川李桜(北海道)
- 女子旅行一泊なのに大荷物 田中万愛(岐阜県)
- 行きのバス天国帰りのバス地獄 中川隼杜(岡山県)
- 星空が語りかけてる旅の夜 大本隼平(岡山県)
- 変な姿勢一流気取りで写真撮る 中村隆人(岡山県)
- 温泉で心いやされおっさん化 中澤優花里(岡山県)
- 考えた旅程もどこへいったやら 金子碧(北海道)
- 孫と旅頬もサイフもゆるみます 那須えり子(愛知県)
- 土産代旅行代金上回り 髙須美代子(愛知県)
- 行き帰りしゃべりどうしの女旅 本田秀雄(滋賀県)
- 博識の父がスターの古寺めぐり 原理恵子(大阪府)
- 外国語混浴してる温泉地 ぶらっとピット(大分県)
- まだ色気妻にもあった宿浴衣 梅原捷次(滋賀県)
- 西行に芭蕉に出会う花の旅 藤林正則(北海道)
- ふるさとをつまみ喰いする道の駅 鶴岡満(千葉県)
- 羽伸ばしそして休めるぶらり旅 なかはらっち(大阪府)
- 旅先で母があなたと父を呼び 角森多久哉 (島根県)
- 借りてきた猫に夫がなるツアー 山路橙葉(神奈川県)
- 一人旅したくてしてる訳じゃない sugisugi(愛知県)
- ちょっと飲みほとんど寝てるバスツアー 最後の趣味(大分県)
- あと三日バイトの先に旅が待つ 澄海(愛知県)
- 婆ちゃんがモダンガールになった旅 よし得(広島県)
- 旅人がこれほどいても無人駅 誼ちゃん(宮城県)
- 家出かと見まごう妻の旅姿 みーさん(神奈川県)
- フルムーンハネムーンより景色見え 橋善(福島県)
- 土地柄が漬物にでる定食屋 佐藤邦彦(宮城県)
- 旅行誌は平面旅は多面体 こでまり(静岡県)
- 入院の荷物に入れる旅の本 桂(新潟県)
- 秘密旅SNSで足がつき おっぱ(大阪府)
- おっくうが来て良かったに変わる旅 ジンバ(奈良県)
- おじさんも試してみたい美人の湯 こゆり(山口県)
- 旅慣れた妻に驚く定年後 たこ(福岡県)
- チャン付けではしゃぐ還暦旅の宿 影法師(埼玉県)
- いつも飲む薬もうまし宿の白湯 ポチパパ(愛知県)
- 巡礼に昔は杖で今スマホ よっこん(東京都)
- 湯につかり旅の訛りを真似てみる 泰山木(福島県)
- 旅に出て駅弁ファースト景色見ず 明拓(奈良県)
- お取り寄せしたいな旅のあの空気 銀花(北海道)
- デパ地下で巡る日本のグルメ旅 亜双(山口県)
- 被災地を旅して人の強さ知り スレッジ・サワー(熊本県)
- まばたきがもったいないと思う旅 かずお(鳥取県)
- 旅の宿大の字作る青畳 詠売川柳(東京都)
- ブログ用名所も料理もまずスマホ 蒼い朱鷺(大分県)
- ここはどこ?浦島太郎になれる朝 あるぱか(大阪府)
- 日程も荷も詰め過ぎぬ旅上手 青空(宮城県)