【旅ペン会員の新刊紹介】芦原伸著『被災鉄道 復興への道』

◇芦原伸著『被災鉄道 復興への道』
(講談社☎03-5395-3522/2300円税別)

3・11大震災で壊滅的打撃を受けた鉄道の被害と復旧状況をまとめ今後の復興の道筋を提言する。
「旅と鉄道」編集長の著者は震災発生1カ月でいち早く被災地をくまなく回り「乗客、乗務員に死傷者が一人も出なかった事実は意外に知られていない」と奇跡的な様子を指摘している。
発災時に東北4県の沿岸を31本の列車が走り乗客は推定1,800人とされる中で生死を分ける緊迫した事態に乗務員や駅員、乗客はどう対応したか、JR常磐、仙石、石巻、気仙沼、大船渡、釜石、山田各線と三陸鉄道の南北リアスの9路線ごとに綿密な取材と豊富なデータで綴り、後世に伝える貴重な迫真ドキュメンタリーを構成する。

発災後13回に及ぶ東北取材を重ね、荒涼とした市街地、消滅した駅、流失した線路や鉄橋、大破した機関車や車両など目の当たりにした。
避難誘導に尽くした鉄道職員や住民ら多くの人々にインタビューし、互いに助け合う日本人の公共の道徳観、奉仕精神を感じ取り、正義感あふれる実直な鉄道員魂を見る。
惨状を思い出したくないという被災者に取材を断られたことも少なくなく粘り強く聞き取りを続けた。
日本の鉄道は「時間を守る、約束を守る、安全を守る」、「鉄道員の律儀な勤務態度から労働の大切さ、信頼と約束の貴さを学び」、「鉄道への信頼こそが世界に誇るべき精神文化だ」と称える。

復興へ道は険しい。
鉄道の高台移転やかさ上げなどで1600億円の試算もある膨大な費用や赤字路線の問題も含め将来的な鉄道の必要性を問う。
被災地の人々の鉄道への思いは「単なるノスタルジーではない」と問題提起し、鉄道が無くなると「日常が消える、地域の希望が消える」(元駅員)、「地域が孤島のように取り残されてしまう」(住民)といった危惧の声を数多く採録した。
交通弱者や中高生、観光客らの利用に加えて、マイカーに身をゆだねる働き盛りも日常に鉄道を利用するよう必要を説く。
「日本人の底力」と言える鉄道を無くすことなく「ぜひ復興の明日へ進んでほしい」と訴えは切実だ。
(文・林 莊祐)
              
=「旅びと」2014年10月号掲載