【会員の新刊紹介】宇野克子(うの・かつこ)著『佛沙羅館物語』

佛沙羅館物語

◇宇野克子(うの・かつこ)著『佛沙羅館物語』
(発行社=ギャラクシーブックス、☎06-4390-1600/1550円税別)

京都のタイ料理店「佛沙羅館(ぶっさらかん)」女将の経営奮戦記だ。著者は大阪に江戸時代から続く庄屋の家系で古美術・古道具などが身近な環境に育ち、タイ料理となんの関わりなく、「もともとタイが好きだったわけでもなく」「飲食業をしていたわけでもない」。
やはり近江の庄屋に生まれた夫が会社勤めのあと京都で美術商を始め、ブティックも経営し、買い付けなどに行くうちタイの魅力にはまった。
誘われるように著者もタイへ「40回以上、覚えていないくらいの回数訪れ」本場の味を食べ歩いた。

25年前、芦屋の飲食街にタイ料理店を出し、雇ったタイ人コックの料理レシピを書きとめ、見よう見まねで厨房にも立った。
しばらくして住まいのある京都の木屋町に移し、京野菜など素材にこだわった料理を工夫し「九条ネギと渡り蟹のカレー炒め」「近江牛もつの豆乳・京白みそとトムヤンクン二色鍋」「京人参と玉ネギの春雨サラダ」「新玉ネギと鶏肉のココナッツオイル炒め」といったメニューを並べ、店は繁盛した。
客が食べ残した皿を見ては何が気に入らなかったのかを考え、同じ料理を何度も作り直して日本人に好まれる味を探した。

必死に店を切り盛りするエピソードの数々が読む人を引き付ける。
従業員に店の売り上げをネコババされたり什器備品を持ち逃げされたり、ある朝いつものように開店準備していたら突然コックが姿を消したり、思わぬことが相次ぎ「後悔と葛藤」に悩みながら、それは「受容と調和の繰り返しだった」と振り返る。
子供のころから舞踊、琴、生け花、茶道などを習い、古美術を学んだ日々を思いながら、仏教の心伝わるタイ料理・文化に興味を持つ人が増え、京の伝統文化を大切にする人びとが多くなることを願う、と読者に呼び掛ける。
(文・林 莊祐)

=「旅びと」2016年6月号掲載

佛沙羅館物語