赤澤 信次郎

「韓国に『B級グルメ』という言葉はありません」。ソウル新聞論説委員で〝食通記者〟のソ・ドンチョルさん(53)が言う。月刊タブロイド紙『テソロ』の人気連載「韓国B級グルメ紀行」は、「B―1グランプリ」をはじめとする最近の日本でのブームから発想したらしい。ソさんの案内で食べ歩いたソウル市内の店は、2日半で10店。確かに、どこも「安い」「うまい」「気取らない」のB級基準をクリアしていた。

卓からこぼれ落ちそうな豆腐料理=「昔の民俗家本店で」

振り出しは、付岩洞(プガンドン)近くの豆腐料理の老舗「昔の民俗家本店」。豆腐盛り合わせ、ビジチゲ(白い豆腐汁)、スンドゥフ(純豆腐)などがドーンと並べられ、昼間から当然のようにソジュ(韓国焼酎)で乾杯が始まる。キムチ、野菜、煮物などのおかずはサービスで、お代わり自由。麦ごはん定食なら8000㌆(約800円)で済む。味は全体に辛くはなく甘め。「韓国人にとっては理屈抜きで懐かしい味なんです」とソさん。
二代目の女主人(39)の話では、創業は25年前。代々の大統領たちもお忍びで来店し、李明博前大統領の好物はケジャン(ワタリガニ)のしょう油漬けだそうだ。

夜は、西小門洞(ソソムンドン)の炭火焼バーベキューの店で山盛りのチキンを頬張る。実は、韓国は〝チキン王国〟で、とくに若者はチキン好き。ここで「ソメ」と呼ばれるのはソジュ(焼酎)をメクチュ(ビール)で割った〝爆弾酒〟。チキンの甘辛さとの相性が抜群で、どんどんイケる。
翌日の朝食は、ソウルのサラリーマン街・武橋洞(ムギョドン)でタラのスープ。二日酔いに効くと評判で、早朝から行列が出来る。ここでもスープとごはん、おかずはお代わり自由だった。

ソウル新聞社地下の喫茶店で薬膳スープ、「十全大補湯」を飲む。甘草、ナツメ、キキョウ(トラジ)の根など10種の生薬を約20時間煮詰めて作る。色は真っ黒で味にも癖があるが、「ソメ」を飲み過ごした身では文句は言えない。
昼食は恵化洞(ヘファドン)の「恵化カルグクス」で韓国式うどんを。
昔ながらの食堂風だが、満席だ。麺は細く柔らかい。牛の胸肉でダシをとったスープは少しドロッとしている。水ダコの刺し身、魚のフライが大皿に盛られ、やはりソジュで乾杯になる。

都心の山寺・吉祥寺やケミマウル(アリの村)で少し腹ごなしをした後、今回の旅のハイライトとなる夕食は、漢江路の鳳山店(ポンサンチプ)でチャドルパギ(牛のアバラの下の肉)の焼き肉食べ放題。仕上げにいただいたテンジャンチゲ(肉入りのみそ汁)が香ばしい。二次会は、「チョンイル屋」のチヂミとマッコリ(どぶろく)。

翌朝、まだ続きがあった。「うるち麺屋」のピョンヤン式冷麺(ネンミョン)。スープはあっさり味だが、細い麺とよく合う。ダイコンキムチもいい味出している。「これが韓国B級グルメの真打ちです」と、ソさんもなんだか得意そうだ。
最後に、梨花女子大裏門近くのしゃれたカフェで、地元女子のグループに取り囲まれる格好で「パッピンス」(あずきのかき氷)を楽しむ。外は、もうすっかり夏模様だった。

2014・7・11付『東京中日スポーツ』から転載

ただいま

どの料理もボリュームが過剰だった。食べられる量の1・5倍、〝テーブルの脚が折れるほど〟お皿を並べるのが韓国流のおもてなしなのだそうだ。分かりましたよ。出された物は残さず食べるなんて無謀なことは、もう考えませんから。

2015・2・15サイトにアップ

赤澤 信次郎

“グルメ記者”のソ・ドンチョルさん

チキンの炭火焼キバーベキュー。ビールと相性抜群だ

焼き肉の後のテンジャンチゲ=鳳山家で

二日酔いに効く「十全大補湯」

ピョンヤン式冷麺=うるち麺屋で

昔の民俗家2代目主人

ソウル グルメマップ

チョンイル屋女将

炭火焼店の女主人