第17回「旅の日」川柳 入賞作品と選評

第17回「旅の日」川柳。厳正なる審査を重ねた結果、入賞作品が決定いたしましたので発表いたします。
入賞作品に続き選評も記載しておりますので、併せてお楽しみください。

(応募者数2262人、応募総数5948句)

【大賞】

孝行の旅行で来たのに払う父

永野雅也(埼玉県鶴ヶ島市 50代)

孝行をしてくれる気持ちはわかるしうれしいが、ここでサッと払うのが父のいい格好。
逆に子は払おうとするが父の気持ちを察してやめる、また払ってもらえるとそれはそれでうれしいもの。これが母なら話は別、子は払わせないし、母も払わず子に払わせてやる。

【優秀賞】(5句、順不同)

チェックイン「お一人ですか」「バツイチよ」

田中勝(東京都墨田区 60代)

これだけアッケラカンと告白されたらフロントの人もどう言えばいいかとまどっただろう。
「いや違うんですが……」モゴモゴと小さな声で言う。しまったと気づいても後の祭り。

帰る家あるから楽し旅の空

大石洋介(福岡県福岡市 60代)

そうなんですよ、あれだけ楽しかった旅なのに、我が家に帰って出てくることばは「やっぱり家が一番いいわ」「家が一番落ち着く」「家に帰ってくるとほっとするわ」。
それでもまた旅に行きたくなるんですよね、わかってるんです、帰る家があるからこそ。

本棚の隅で隠居の時刻表

こほし(岩手県紫波町 60代)

歳を取ったからなのか、忙しいからなのか、旅に行けなくなったので時刻表は本棚にひっそりと置かれている。ちょっと切ない。旅が好きだったのでしょう。でも時刻表を見ればいつでも、どこへでも行けます。思わずグッとくる秀句。

幸せが車窓に映る共白髪

あざみ健太郎(東京都板橋区 60代) 

そうですか、幸せですか。聞いてるこちらが気恥ずかしくなりますが、堂々と言えるおふたりは本当に幸せなんでしょうね。そんな境地になりたいものです。いや、なったとしてもなかなかここまで言えません。

旅終えてスマホに残った謎写真

ちゃんかな(青森県青森市 10代)

確かに1枚か2枚、何を撮ったかわからない写真が出てきます。どこで撮ったか、何を撮ろうとしたのかもわからない、でもそのときは確かにこれだと思って撮ったのでしょう。
昔なら現像してからびっくりしたけれど、今は1枚や2枚そんなのがあっても屁でもない。

【乳頭温泉郷賞】

グルメ旅山越え谷越え体肥え

トニー・デップ(青森県青森市 10代)

はい、やりました。ご立派。堂々たる宣言、見事です。単なる駄じゃれとは言いません。
艱難辛苦を乗り越えてさぞかしおいしいものをいっぱいお召し上がりになったのでしょう。痩せたらまたグルメ旅に出ればいいのです。

【選評】

選考委員長 谷 良一
(『M-1グランプリ』創設者/大阪文学学校講師)

川柳には全くの素人なのに選考委員を引き受けたことを徐々に後悔し始めた頃、約六千句もの中から一次二次選考を通過した一九五句の作品がドカンと送られてきた。
 覚悟を決めて読み始めてみると傑作ぞろいで選考に苦労した(ということにしておきます)(笑)。

調べてみると川柳には三つの特徴があるようで、それは
◇うがみ:物事を正面から見ず、変わった視点から捉えるようにする
◇軽み:盛り込みすぎた理屈っぽさはないように、軽やかなイメージで
◇おかしみ:“笑える”というより“ユーモアがある”というイメージで
だそうだ。確かに、笑いと風刺・皮肉というのが川柳のイメージだ。
今回正面から感動を詠んだ、いや川柳では詠むと言わずにものすと言うらしいので、感動をものしたきれいな句が多く、どちらかと言うと風刺が効いたものは少なかった。
その中からできるだけ笑いと風刺があるものを選んだ。
それと、ねらっているもの、頭で考えてひねくりだしたようなものは外した。
実体験に基づいて、、、で驚いたこと、感動したこと、失敗したことを正直に書いてあるものは人の心を打つ。
あるあるとうなずく句、そんなことがあるのかと驚く句、思わず笑ってしまう句、様々な作品を読んでいるうちに旅に行きたいと思った。そう言えば長いこと旅に出ていない。
選者の好みで古き良き時代の風景をものした句や、寅さんがいそうな句をいくつか選んだ。
  無人駅ベンチで一緒赤とんぼ  
  鈍行で楽しめた春遠い春
  昭和唄聴きたし車窓ローカル線

今回選考していて、スマホとかグーグル、Wi-Fi、SNS、AIが現代の旅には欠かせないものとして根付いていることを改めて思った。今やそういうものを抜きにして旅は成立しないかのようだ。景色を見るよりスマホを見ている時間の方が長かったりする。
Vlog用旅の半分カメラ越しこれはBlogの間違いだと思ったら違った。日常生活を動画で切り取りアップするVlogというものがあるのだそうだ。
歳を取ったからか、こんな句にも惹かれた。
財布でいい孫と二人の旅ならば祖父他界「羽が生えた」と祖母旅行逆に祖母が亡くなると祖父はあとを追うようにすぐ亡くなるんですが。
一人旅が出てくる句が十三もあった。選者はひとり旅というものをしたことがない。ひとりで寂しくはないのだろうかと思ってしまう。それはそれで楽しい気もする。一度試してみるか。 
 今、人気テレビ番組の影響か俳句が大人気である。

 なんとなく高尚で格調高いイメージの俳句に対して、川柳は軽妙洒脱、諧謔に富んだ軽いイメージがある。
物価が上がり景気が悪く、重苦しいムードが立ちこめる今こそ旅に出て、川柳をつくる、そんな生活をしたいものだ。そうすれば今回の川柳に書かれていたように、憂さを笑い飛ばしてうがみ、軽み、おかしみの飄々とした楽しい人生を送ることができるだろう。
  物価高忘れてはしゃぐ旅も良し

(応募者数2262人、応募総数5948句)

【入賞作品】(五十句、 順不同)

土産屋をあれかこれかと三周目

外野ナオ(神奈川県)

生きる場所一つじゃないと旅で知る

柴犬のすもも(徳島県)

AIに出せぬ情緒のバスガイド

牽牛(東京都)

観光の穴場訪日客に訊き

江戸川散歩(千葉県)

人生は旅だと分かる三十路かな

中沢優(千葉県)

酒なくてなにを旅路の牧水忌

城戸通宗(愛媛県)

出番だよ付箋だらけの旅行本

町田友信(東京都)

さぁ旅へ主婦と母から素の私

のほほん(福岡県)

「今の何?」食べてから知る美味の主

そらうさ(東京都)

Vlog用旅の半分カメラ越し

えびたろう(岡山県)

異国より古都で英語の腕試し

まゆ(神奈川県)

財布でいい孫と二人の旅ならば

ぶらぶら(愛知県)

ノープラン夫婦の絆試される

宇佐美和人(広島県)

駅弁に限って出ない好き嫌い

冬子(神奈川県)

物価高忘れてはしゃぐ旅も良し

三浦政宏(宮城県)

お遍路の結願可能か膝に聞く

髙木遊楽(大分県)

友見舞う早く治れと旅パンフ

拓ちゃん(奈良県)

米不足信じられないローカル線

テクノボー(栃木県)

目覚ましの前に起きたる旅の宿

MD(東京都)

ご当地の訛りをつまみに粋な酒

安達昇(山形県)

憶えてる?母の言う旅我2歳

こすす(大分県)

鏡見て本当(ホント)だと妻美人の湯

キンモクセイ(山形県)

家族旅親父と息子酒びたり

後藤正興(山形県)

「いるかも」とリュックふくらむ旅支度

神農はな(岐阜県)

情報なし五感に頼る自由旅

ゆう子(大阪府)

土産手に列の長さも自慢する

かいちん(富山県)

一人旅重ねる度に友が増え

國友美信(京都府)

初めての貸し切り風呂で掬う星

エラコ(長野県)

八百万神で満員朱印帳

ようよう(鹿児島県)

心知体ぜんぶ身につく一人旅

藤原睦(北海道)

雪かきの体験ツアー感謝付き

高木秀子(北海道)

面構え違う子とつく帰路の旅

平山暁生(東京都)

ゴミ拾え金は落とせよインバウンド

かばくんのかば(北海道)

昭和唄聴きたし車窓ローカル線

ファンタ爺(大阪府)

一人旅君と出会って今三人

松村波光(大阪府)

トランクもズボンも閉まらぬ最終日

はるるん(大阪府)

百までは生きる覚悟の旅プラン

山田明(千葉県)

寺社めぐり喜寿の願いはボケ封じ

チビ丸子(東京都)

古希祝い主役が運転疲れ旅

北井武国(山梨県)

祖父他界「羽が生えた」と祖母旅行

中軽米みさ江(岩手県)

年金が安近短のコース決め

寺本寧枝(茨城県)

雛段に旅のこけしも仲間入り

かめ女(栃木県)

寒暖差連れてく服が見つからず

あくえり(青森県)

旅立ったそこまで良かった一人旅

山本紗羅(兵庫県)

無人駅ベンチで一緒赤とんぼ

たかさま(兵庫県)

復興を旅で応援能登に春

やまびこ(千葉県)

鈍行で楽しめた春遠い春

自由一花(東京都)

千枚の棚田に寄せる能登の潮

ハルル(東京都)

靴擦れも日焼けも忘れ露天風呂

びわしゅ(東京都)

行商のおばさん籠と添い寝する

やたべ(茨城県)

たくさんのご応募ありがとうございました。