【会員の新刊紹介】
飯出敏夫著
『日帰りで登れる温泉百名山』
(集英社インターナショナル)
全国の温泉めぐりを40年以上続ける温泉達人が前作「温泉百名山」を2年前に4年がかりで上梓した。今度は取材期間1年ちょっと、冬季を除くと、たった11カ月で名山100座以上に登って2冊目をまとめた。
大学時代はワンダーフォーゲル部だったが1カ月に10座の登頂は屈強な山男といえども尋常でない。達人は「誠に楽観的な机上プランで、ハードではあるが、不可能とも思えない」と言ってのける。
いまは落ち着いているが、がんなど大病も患った。
山に登り温泉に浸かり取材執筆する、そのような行動や心掛けが病と闘って元気をもらうと言う。
どこまでも前向きだ。
前作で深田久弥の名著 「日本百名山」にならって山と温泉を結び付けた。
反響は大きく、続編が欲しいと多数の読者から声が寄せられた。
今度は、年配でも登りやすい山がいい。登山口から日帰りで登れる山で温泉も楽しめる。途中までリフトやロープウェイでも行ける名山を加えてほしいと。
定かでないが全国に温泉は8,000から1万はあるらしい。
その3分の1の少なくも3,000以上の湯に浸かった温泉好きが山々を登り続けて77歳。
気力と体力が続くか。そして取材費も足りるか。
往復の交通費を減らすため取材出張は数週間から1カ月になる長旅を重ねた。
悪天候やコース変更で登り直しがあり日帰り客不可の湯もあり結局100座を超えた。
初級者向けの日帰りコース中心に選んだこともあり、ふだん登山と縁のない温泉仲間がたくさん同行し応援してくれて非常に励みになった。
もちろんファミリーの支えがあってこそ成し遂げられた偉業。
パートナーから「やれると思うならやってみれば。応援するわよ」と本書にほのぼのとした楽しいイラストを描くなど物心両面で温かいエールがあった。
北から南へ紹介されたコースを見ると、この文の筆者が経験したことのある興味あふれた山と温泉が少なくない。
例を挙げてみよう。
山歩きデビューにふさわしい「八幡平(はちまんたい)と藤七( とうしち)温泉」(岩手県)は緩やかな起伏の散策で高山植物と出会い湯量豊富な露天風呂に感激。
秋田県の「森吉(もりよし)山と打当(うっとう)温泉」はゴンドラ利用で容易に登れる名山と猟師が愛するマタギの湯。
長野県「東篭の塔山(ひがしかごのとうやま)と高峰温泉」は前書に続いて登場する著者イチオシの人気コースだ。
三千メートル級の「立山とみくりが池温泉」(富山県)はケー ブルカーなどで乗り継ぐ日本最高所の温泉と組み合わせ。
奈良県南部の「玉置山と十津川温泉」は信仰の山と名湯。
この山奥まで来ると1泊以上の旅をしたい。
いずれもとっておきの名山名湯だ。
百座百湯を訪ね、加えた先にグルメはどうか。
百座百湯百味、ぜいたくな旅が夢に浮かぶ。
(文・林 莊祐)