第16回「旅の日」川柳。厳正なる審査を重ねた結果、入賞作品が決定いたしましたので発表いたします。
入賞作品に続き選評も記載しておりますので、併せてお楽しみください。
(応募総数:5403句)
【大賞】
円安でYOUの特上見てる並
ちろり(北海道 札幌市 50代)
この句自体の見た目のインパクトが強く、特上見てる並という表現がよい。
読み手が想像する特上と並は何であろうと圧倒的な差があるはず。おお、凄いと思いながらも自分の並を改めてみた時の感情は言わずもがな。
【優秀賞】(順不同)
予備知識薄めにしたら濃い旅に
雪丸太郎(熊本県熊本市 50代)
別記の選評で書いたことをきちんと川柳でまとめてくれている。知識を薄めという表現は一般的ではない気がするが、この一言で旅本来の醍醐味を改めて教えてくれた。薄めと濃いという言葉遊びも心地よい。
都会出て最初の一言ビルたけぇ~
ヘラクレス(青森県青森市 10代高校生)
子供の頃、大型書店に連れて行ってもらったときに、この階にあるのは全部漫画⁈しかもその上の階もそうなのと驚愕したことがある。実際に見てみると想像をはるかに上回り、思わずこの一言が出てしまう。上を見すぎて首を痛めたのではと心配してしまう。
一瞬の車窓で決めた降りる駅
ベンジャミン(兵庫県神戸市 40代)
景色なのか看板なのか動物なのか建物か。対象はなんでもよい。時間に縛られず気ままな一人旅だからできること。ただ、地方の電車だと降りた駅から見えたところが大分離れていることもある。で、どうだったの?と結果が聞きたくなる。興味を持たせる句。
到着の駅で空気の一気飲み
ブンママ(広島県東広島市 40代)
深呼吸ではなく一気飲みとはお見事。威勢がいい。長時間の移動で縮こまった体をグッと伸ばし、ガッと飲み干してプハーと一息。旅の始まりにピッタリ。
地図よりも心が連れてく知らぬ道
松尾ばしょん(愛知県名古屋市 10代学生)
スマホを持っていれば道案内があり間違いなく目的地に着く。ただ、それよりも視覚や嗅覚に加え、閃きが働くことも。思わぬ発見があるのか行き止まりなのか。本来ならば寄り道と感じてしまうがそれも含めて自分なりの地図が出来上がる楽しさがある。
【乳頭温泉郷賞】
駅弁がいいのに弁当持たす母
ぽん太(兵庫県神戸市 60代)
親の気持ちが分からないでもないので邪険にできない。子のじれったさが伝わってくる。
その一点を評価。殺伐とした世の中でも親子の愛情がしっかり伝わるほっこりな句。
【選評】
三遊亭好の助
(落語家 五代目圓楽一門会 真打)
今年も選者になったお陰で様々な句に触れ、疑似旅行を楽しむことができた。有り難いことである。
昨年とは違い、今までの鬱憤を晴らすかのように、念願の旅行をしてきた!と感じられる句が多く見られた。その一方で旅人を迎える土地の人の感情や、インバウンドに対しての句もあり脱コロナが進んでいることを実感した。誠に良いことである。
旅に正解はない。勿論、四季折々の絶景や旬の物も味わうことを目的にすることはあるが、各々で好きなタイミング、好きな所に行き好きに楽しめばいい。しかし、近年は事前に調べて、(追い込み)ここに行かなければ、これを買わなければ、あれを食べなければと押し並べて同じような行程になる。
お土産屋に入ればマスコミで取り上げられたというポップが付いているのを買い、どこにあってもおかしくないようなオシャレなカフェに入り休憩をする。その後は、撮った写真と共にSNSに、どこそこに行きました、と書く。
まるで、自分の行動が正しかった!ちゃんとオススメのコースに行きました!とテストで正解をもらうかのように。まさに、私がそう。
せっかく来たんだから全部を観光しよう。全てを経験しようと貧乏根性が働き、自分の直感を信じず、オススメだから良いに決まっている、とプライドもないのに失敗を嫌う。
そして毎回、旅先での記憶は薄い。ただ疲れた、という感情しか残らない。
写真を見返しても、空気や匂い音を思い出すことが出来ない。旅に正解はないが不正解はあるのかもしれない。そもそも、旅に正解不正解と考える段階がおかしいのだろう。
昨年、選者になり今年は自分もこっそり応募しよう。と思っていたがなにも浮かばなかった。それをそのまま川柳にとの発想の切り替えも出来なかった。
それを踏まえて、今では1日のことを川柳にしメモを残し寝るようにしている。日記のように。
応募してくださった皆様には感服するばかりである。限られた文字数で自分の感情を素直に表現したり、それを俯瞰で見て面白く伝える。それが共感をよび、読み手に一服の癒しを与える。また、古い記憶を甦らせたり未知の世界を想像させる。まさに「旅の日」川柳だなと。
残念ながら入賞されなかった方も引き続き川柳を作って頂き応募をしてほしい。
川柳を口実に旅に出るのもよし。実際に出かけなくても、テーマは「旅」と大きく無限に広いので気楽に作ってもらいたい。
作り続けることにより今までよりも視野が広がり、小さな喜びや少しの幸せを感じられ今まで以上に日常が楽しくなるはずだから。今の私がそうであるので間違いない。
(応募者総数2089人、応募総数5403句)
【入賞作品】(五十一句、順不同)
雪景色にはしゃぐ夫を囃す妻
ロック丸川柳人(大阪府)
すっぴんの妻 妖怪の町歩く
おとちゃん(愛媛県)
ようこそといわれた気したこの土地に
中村ミノリ(福井県)
旅先で自分に宛てた手紙書き
村松義弘(愛知県)
旅にあれば朝湯朝酒遠慮無し
マサミ(福岡県)
旅の恥かき捨てられた地元民
こまぺい(東京都)
あと1㎏キャリーバッグもダイエット
なーちゃん(兵庫県)
旅慣れてスマートになる旅鞄
松田少納言(千葉県)
笑ってる車窓の僕にまた笑う
とも(兵庫県)
食の旅スマホも景色食べまくり
キャサリン(佐賀県)
何故かただ見上げたくなる旅の空
上田ひろし(富山県)
棘が抜け丸い夫婦が二人旅
いちごうなぎ(長野県)
古寺巡り五円ばかりの幸願う
千葉旅人(千葉県)
訛り消え英語聞かれる上野駅
雪ボタルの妻(新潟県)
天の川あること知った旅の宿
かなぽこ(兵庫県)
二次元の看板むすめ住む秘湯
戸津琢雅(東京都)
北風とボタン式電車に駆け込んで
樹ありす(東京都)
「いいね」より「良い音」風流和の空間
伊藤テト(新潟県)
よぼよぼとよちよち皆で旅の空
おーちゃん(長崎県)
朝市の歴史を刻む顔のしわ
杏花(香川県)
途中下車しながら旅も人生も
やんちゃん(福島県)
散る花と速さを競うローカル線
けろね(大阪府)
顔上げて検索やめて探索へ
やすよ(兵庫県)
ウニ丼にまた会いたくて利尻富士
エッグ(山形県)
さいはての古食堂の中華麺
城戸通宗(愛媛県)
読み終えた文庫に落ち葉旅みやげ
道草詩人(広島県)
徘徊は捨てた時間を拾う旅
このは(長野県)
誘われて心浮き立つ旅カバン
水谷裕子(三重県)
名残惜し雨の匂いに急かされて
隼鷹(大阪府)
旅立ちに袴も濡らす春の雪
髙田祐子(大阪府)
母さんのお帰り聞いて旅終了
頓痴気(滋賀県)
露天風呂月が湯船で乱舞する
はたやん(千葉県)
春節に大阪弁が押され気味
小松真人(大阪府)
荷物持ちつもりの旅でお荷物に
ハッピー椿(京都府)
旅の宿別腹そっと用意して
無職(広島県)
雨の旅天気の予約もしたかった
山下弘美(埼玉県)
旅の後ふるさとの良さ気づくとき
犬の友達(青森県)
おしゃれして方言混じりの標準語
えび(青森県)
下がる気温あがるテンション雪国へ
いいだ(青森県)
夢で行く西方浄土の見学会
小栗勤(愛知県)
早く届けと鳥の切手を貼ってみる
久保良勝(愛知県)
膝手術決断させた旅ごころ
菅節美(兵庫県)
連れられて行ってた旅行連れて行く
田中浩温(兵庫県)
美味しいを塗り替えてく旅の味
大久保光子(新潟県)
地獄蒸し地球の熱気食べてやる
山田由美子(秋田県)
地元にも海は有るのに別のもの
じつ(愛知県)
笑い合う2人のあいだ旅雑誌
那須琴子(兵庫県)
旅行中髪の香りが変わってく
所唯月(岐阜県)
旅先でナンバープレート驚かれ
藤野結乃(岐阜県)
一人旅遠回りした帰り道
渡辺かずは(岐阜県)
家族旅オレだけ寝床廊下なり
細江隆一(岐阜県)
たくさんのご応募ありがとうございました。