第14回「旅の日」川柳 入賞作品と選評

第14回「旅の日」川柳。厳正なる審査を重ねた結果、入賞作品が決定いたしましたので発表いたします。入賞作品に続き選評も記載しておりますので、併せてお楽しみください。

 【大賞】(一句)
駅弁は無かろう宇宙ステーション   藤田留実子 (秋田県能代市)

「駅弁」を話題にした点が作者のお手柄だった。宇宙旅行をテーマにした作品はほかにもあったが、駅弁にまで発想を飛ばした作品はなかった。そのユニークさを評価したい。旅行に駅弁は付きもの。駅弁のない宇宙旅行は、やっぱり味気ないもの!?

【優秀賞】 (四句、順不同)
恋心みたいにつのる旅心   ヨツ茶 (東京都板橋区)

コロナ禍も三年目、そうなると、もう「三年越しの恋心」ということになる。旅好きな心情がよく伝わってくる一句だ。旅好きな皆さんの共感をきっと呼ぶ一句でもあろう。

車窓には別な顔したひとり旅  高田三江子(静岡県静岡市)

ひとり旅の一場面。ふと車窓に目をやるといつもとは違う自分がいた。「別な顔」をしている自分が。どこか哲学的雰囲気のただよう一句だ。魔法の文芸=川柳は、自分の心の内側をも詩の対象にすることが出来るのである。

「映え」よりも心に響くおもてなし   よしごん(東京都練馬区)

「映え」は「ばえ」と読む。若者言葉の一つで、「インスタ映え」「SNS映え」のように使われる。要は、「どう見えるか」が昨今の関心事のようだ。そんなことよりも、作者は「心に響くおもてなし」の方を大事にしたいという。流行語を上手に採り入れた作品。

GOTOと言ったり待てと言われたり   熊猫太夫(福岡県北九州市)

そうそう、ほとほと困ったっけ。計画が二転三転してしまった。政治批判の一句だが、こんな風に軽~く言い放ったことによって、読者の共感度はかえって増すもの。「言ったり」「言われたり」の対句表現もまた軽妙で、お見事だった。

【乳頭温泉郷賞】(一句)
「行きたい」を形にしたら日本地図    雪月星(富山県高岡市)

発想も表現もなかなか独創的で、理知的な一句だ。「ここがいい」「あそこに行きたい」と地名を辿っていくと、日本地図の形になっていったという。ナルホド、そうかも知れぬと感心しきり。

【入賞作品】(49句、順不同)

ディスタンス袖触れあわぬも旅の縁
     つるたく(東京都)

いつしかに婦唱夫随のフルムーン
     浦上由子(神奈川県)

旅じたくワクチン証明必需品
     ワイングラス(千葉県)

道ばたの道祖神までマスクして
     早坂佳代子(千葉県)

三密をさけて星降る車中泊
     春霞(香川県)

孫となら旅の経費はおしくない
     恒松絹江(福岡県)

写メールでこれ見よがしの妻の旅
     さっぱり(大阪府)

妻と行く毎度毎度のケンカ旅
     鈴木康文(福島県)

東京のアンテナショップはしご旅
     荒木光弘(東京都)

仲直りしたくて誘う旅もある
     よだきん坊(宮崎県)

カーナビが古くて走る海の上
     ノブちゃん(愛媛県)

家着いて「やれやれ」が出る旅帰り
     竹浪りえ(富山県)

宇宙への旅もあっさりやってのけ
     富谷英雄(岩手県)

また旅に行きたい古希のジム通い
     森屋多美子(埼玉県)

旅支度昔わらじで今マスク
     佐藤真彦(秋田県)

大の字に寝てみる宿の畳部屋
     石川昇(東京都)

凍星のほか何も無き無人駅
     舘健一郎(茨城県)

あの味をお家で再現なんか違う
     黒柳ゆずゆ(愛知県)

オンライン授業をしながら家族旅行
狩俣依伊人(沖縄県)

私もねいつかはしたい一人旅
     飯田千夏(岐阜県)

黙食で宿のグルメに全集中
     旅の介(神奈川県)

「ただいま」と心で言いたい宿がある
     りんご(新潟県)

感染の合間を縫ってハネムーン
     会社員(東京都)

年重ね「いいね」と「そだね」交わす旅
     セイアン(兵庫県)

露天風呂気宇壮大の天下取り
     青葉乃翁(神奈川県)

ハネムーン無事半世紀フルムーン
     純に生きる(佐賀県)

朝風呂のパノラマビューをひとり占め
     ゆきんこ(北海道)

旅支度終えてコロナでドタキャンし
     おごじょ(千葉県)

ドア開けて「知らなかった」に会いに行こう
     石野優花(神奈川県)

相棒は接種証明一人旅
     刹那(北海道)

定宿の変異はしない心地良さ
     K・U(福島県)

マスク取りほっと一息旅の宿
     しょうしょう(埼玉県)

薬から始める老いの旅支度
     中村登志子(大阪府)

アメニティ使わないのに持ち帰る
     高田真衣(大阪府)

カラフルな薬を連れてフルムーン
     かばくんのかば(北海道)

黙食の手本のように蟹を喰う
     カジ(東京都)

終業後すぐに温泉ワーケーション
     米田光(埼玉県)

見て触れて嗅いで味わう生の旅
     あい太郎(神奈川県)

たんぽぽの綿毛のような気まま旅
     無門(東京都)

VRパジャマで登るエベレスト
ごうごう(東京都)

久々の旅で句帳が密になる
     すみれ(愛知県)

いつもより月が大きい旅の宿
     ルーク(東京都)

「オアヅケ」の旅に地球儀抱きしめる
     十音(佐賀県)

満月も独り占めして露天風呂
     るるねこ(福岡県)

窓側を子連れに譲る一人旅
     ハタ坊(岩手県)

遠くまで来たと感じる国訛り
     春風(山口県)

仲の良い夫婦に見える旅の宿
     春風(山口県)

肩書を旅人にするリタイア後
     道産子(北海道)

星の数数えて入る露天風呂
     ココロパパ(兵庫県)

【選評】
  川柳は魔法の文芸
   (一社)全日本川柳協会副理事長
         麗澤大学オープンカレッジ講師
          江畑 哲男

コロナ下もとうとう三年目に入った。「コロナ鬱」なる新語に象徴されるように、少なからぬ人々が陰鬱な空気の中で、「自粛・巣ごもり生活」を強いられてきた。
 とりわけ、シニア世代。現役リタイア組の嘆きは深かった。彼らの嘆き節はしば
しば小生にも聞こえてきた。曰く、「外出がままならない」、「気分転換が出来ない」、「カラオケに行きたい」、「政府はいったい何をしているんだ」、等々……。マスコミの報道が鬱屈した気分に輪をかける。そんなコロナ下での我慢生活だった。それが二年余り続いている。
 しかし、考えてみれば右は少々おかしい。「奇妙」な話である。シニア世代の大半は、衣食住いずれの心配もない。あったとしてもレアケース。にもかかわらず、シニア層の不満の方が高くて大きい。コレはいったいどういうことなのだろうか。
あるとき小生は、教え子から叱られてしまった。
「先生はイイじゃないですか。働かなくても年金が入るんだから、……」。音楽関係のイベントを手がける教え子の皮肉の一言だった。コロナ禍で収入が激減したらしい。現役世代と比べれば、たしかに私たちは恵まれている。彼らは「生活」をまず考えねばならないのだ。コロナの心配以前に、仕事や子育て、さまざまな雑事が横たわっている。当然、これらとの格闘が優先される。そんな現役世代から見れば、シニアの悩みなど甘っちょろいものでしかない。「贅沢」な悩みに映っていたに違いない。

「人はパンのみにて生くるにあらず」。
 一方、シニアの側にも言い分がある。その最たるものは「生き甲斐」であろう。「メリハリ」とか「張り合い」という言葉に置き換えてもよい。
「人はパンのみにて生くるにあらず」―たしかにそのとおり。人間というのは、物質的に満ち足りていればそれで満足出来るという存在ではない。まして、現役時代に目いっぱい働いてきたシニアたちである。リタイア後くらいはゆったりと過ごしたい。精神的にも満たされたい。そう願ってきた。その願いが今次コロナ禍で失われてしまった。

こうしたなか、比較的元気だったシニアたちがいた。より正確に申し上げれば、元気を失わなかったシニアたち。川柳を趣味とする仲間たちである。
 どっこい生きているぞ!
 そんな声が川柳会を主宰する小生に届けられた。「自粛・巣ごもり生活」の中のホンネを、川柳という文芸にぶつけてきたのだった。
川柳人は面白い。川柳人はユニークである。ある時は世相に鋭く切り込み、ある時はとぼけた味わいを演出し、またある時は角度を変えた見方を提出する。
 コロナ下にあって、人々は「型」にはめられてしまったようだ。同じような見方・考え方しか出来なくなってしまった。思想も感性も画一化されてしまった感がある。「情報弱者」という言葉があるが、シニアの多くはまさしく「情報弱者」。毎日垂れ流されるステレオタイプの報道に知らず知らずのうちに影響され、支配されるようになってしまった。
 そんななか、川柳人は一味違った。川柳の文芸理念の一つである「穿ち」の精神を発揮しながら、コロナ下の人間と人間社会を見つめてきた。コロナ下であるにもかかわらず、個性ある発見と感性を五七五に書き留めていった。一言で申せば、「川柳味」。川柳味のある作品が小生のもとに寄せられ続けたのだった。
いまそれらの作品を紹介する余裕はないが、川柳には「魔法の力」があるのではないか。たしかにある。そう思う。指導者の一人として、改めて「川柳の魔力」を実感する日々が、この間ずっと続いている。
 「川柳の魔力」とは何か? まずは、自分自身を元気づける力、である。コロナ下にあって、川柳人は日々の喜怒哀楽を刻み続けてきた。あたかも自身の生を確かめるように。
 ケレン味のない川柳は、他者と響き合う力を持っている。「ナルホド」「そうそう」「この気持ち、分かる分かる」、そんな響き合いが川柳を通じて生まれたのである。響き合いは、他者への共感や思いやりにつながった。共感や思いやりは、自身のみならず、他人をも励ます力になっていく。自他ともに「生きる力」となってこだまするのだ。
 こうした力を小生は「魔法」と呼び始めた。川柳には、そんな「魔法の文芸」的要素がたしかに備わっている。そう信じたい。

若干PRめくが、コロナ下のこうした川柳活動をこのたび著書としてまとめることになった。シニアの川柳もたくさん採録している。と同時に、コロナ下で初めて川柳を創ってくれた高校生たちの作品も掲載した。さらには、アイドルグループが川柳創作にチャレンジした様子等々も盛り込んである。題して、『魔法の文芸―川柳を学ぶ』(飯塚書店)。この際、「渾身の書き下ろし」と宣伝しておこう(笑)。以上、PRはココまで。

さて、第十四回の「旅の日」川柳。今回も多数のご応募をいただている。応募総数は五九九〇句(人数は二三〇〇名余)。児童・生徒二二二人、五七三句も含まれていると聞いた。有り難うございます。
その「旅の日」川柳の入選作品をご紹介しよう。言うなれば、「魔法の文芸」たる川柳の、「旅の日」版ということになるのだろうか。今回も力作揃いである。そんな川柳を皆さんとご一緒に鑑賞していきたい。