写真・文:加藤厚
JR関西線『亀山駅(三重県)』から『加茂駅(京都府)』までの区間は、非電化単線区間でローカル色の濃いディーゼル車(1~2両編成)がゆっくりと走ります。この区間内には12の駅あり、それらを乗り降り自由の切符で、途中下車の旅をしました。沿線には、城跡、寺社仏閣などの歴史的名跡や鉄道・土木遺産、おしゃれな店舗・建物など魅力的なスポットが盛りだくさん。それでは、ご案内いたしましょう。
まずは、『加太(かぶと)駅』から。
山岳地帯のこの辺りは『鈴鹿越え』同様に難所でした。
山河を越えるためのトンネルや橋が、鉄道が敷設される明治時代から数多く作られました。そしてそれらが鉄道遺産として現在も保存されています。加太駅を出て、『猪元橋(いのもとばし)』『屋渕川橋梁(やぶちがわきょうりょう)』『板屋川橋梁』『第165号架道橋』を巡り、公園や峠超えで自然も味わいながら加太駅に戻る5km弱のコースが用意されていました。
さっそく、ミニ旅に出ます。各橋や橋梁では、これまでに見たことのない橋脚の石積み(イギリス積み)で、重厚感が漂いそれはそれは見事でした。そしてそれらが自然と調和していて、思わず唸り声が出てしまいます。鉄道ファンは列車の通過時間を見計らって、橋とのツーショットを是非撮ってみてください。次に『165号架道橋』を訪れました。こちらはフランス積みの胸壁に、赤煉瓦とやや濃い煉瓦を交互に配した『ポリクロミ―』と呼ばれる模様が施され、荘重な美しさを魅せていました。鉄道遺産などを見学・撮影した後は、『亀山森林公園』『梶ケ坂峠』の自然美を愉しみ加太駅へと戻ります。

次は30分ほど汽車に乗りまして、『島ヶ原駅』で降りてみましょう。
ここは、12駅の中で唯一温泉のあるところで『やぶっちゃ』という源泉かけ流し、ミネラル豊富な良質の温泉があります。残念ながら時間の都合で入浴できなかったのですが、次回はゆっくりと浸りたいなぁと思います。ずいぶんと歩き、お腹も空いてきました。温泉内にある食事処でお昼といたしましょう。伊賀牛がおすすめということで、『すきやき御前』をいただきました。ボリューム満点、肉味もジューシー。価格もリーズナブルで大満足です。それでは、腹ごなしに木津川沿いを散策しながら『大和街道』に入ります。島ヶ原は江戸、藤堂藩の時代、宿場町として栄えていました。その名残りを味わえる佇まいをいろいろと楽しめます。次の汽車の時間が迫ってきましたぁ。自然石の岩屋の中に行者像や磨崖仏が祀られている『行者堂』を見学、そして醤油の名店『福岡醤油店』をチラ見して大急ぎで島ヶ原駅に戻りました。
さて、三つ目の下車駅は10分ほど乗車した『大河原駅』です。
駅から歩くこと3分くらいで、最初のスポット『恋路橋』に着きます。木津川に架かるこの橋は、趣のある沈下橋でした。私の知っている限りでは、駅から一番近い沈下橋ではないでしょうか。木津川の流れが体感出来て、しかも豊かな自然が味わえるステキな処です。次は、『恋志谷神社』へとまいります。ここは昔から女性の守り神として信仰されていて、先ほどの恋路橋を渡って参詣すると恋愛成就するそうですよ。お参りをして、さらに歩いていきます。高木が生い茂り、森林浴も楽しめます。やがて再び木津川に出ると、レンガ造りのたてものが現れました。大正8(1919)年に運転を開始した『関西電力 大河原発電場』です。大正ロマン香るたてものは、『全国の建物2000選』にも選ばれています。中の見学が叶わないのが残念でしたね。そしてこのあと近隣で人気の、お店に伺いました。まずは、『ミッシーのぱん』。米蔵を改装した北欧風のお店で、トナカイのマークが目印なんです。天然酵母を用いたパンは、香りが良く食感はモチモチです。ビートルズやクイーンの各メンバーの顔を模したパンも販売するユニークなお店で、イート・イン・コーナーもあります。そしてもう一軒ご紹介します。地元のとれたて野菜やお茶・原木椎茸。そして手作り味噌やこんにゃくが季節ごと店頭に並ぶ『農林産物直売場』です。木津川の桜土手沿いにあり、桜の時は木津川との絶景がみられるそうです。さて、名物の『しいたま焼き』をいただきましょうかね。「あれっ。これって、たこ焼きじゃないの」。見た目は、たこ焼き。しかし中には、たこの代わりに甘辛い原木椎茸が入ってます。食感は、たこと違いますがコクと旨味は勝っていましたね。ごちそうさま。それでは、今日はこれにておしまいにして、宿のある『伊賀上野駅』へと向かいましょうかね。


旅の二日目に入ります。まず向かったのは、『笠置(かさぎ)駅』です。
笠置は京都府の南端に位置する、府内で一番人口が少ない町です。四季を通じて豊かな自然や歴史を感じられる風光明媚なエリアです。町のシンボル笠置山は古くから信仰の対象とされ、山頂にある笠置寺には日本一と云われる『弥勒大摩崖仏』があります。その他にもパワーを受けられる処が多数。そして木津川に沿って広がる巨石群でのボルダリング、川でのあそびカヌー、川べりでのキャンプ、渓谷ハイキングなどレジャー満載のお勧めスポットです。そのなかでも特に感激したのは、『東海自然歩道』のハイキングコースを歩きながらの木津川の渓谷美とその横を通り過ぎる列車との遭遇でした。警笛を鳴らしながら短いトンネル群を抜けて姿を現わした一両編成の車両に萌えましたねぇ。

そして次は、亀山方面へ50分ばかり乗車します。車窓の木津川から見える山々のすがたは秀逸ですね。景色を楽しんでいると時間はアッいう間に過ぎ、次の目的地『新堂駅』に着きました。駅前が、今まで降りた駅と違いモダンな雰囲気を魅せていました。ここには工作機械のトップメーカーの『森精機』がありまして、伊賀市とタッグを組んでまちづくりに取り組んでいるそうです。そのなかでも『SHINDO YARDS 図書館 BOOKMARK STORAGE』は、駅の目の前にあるカフェとギャラリーが併設された図書館。スタイリッシュでその上、機能性も備えた建物・空間にうっとりしてしまいます。そして、扱い図書の豊富さと切り口の多様さは秀逸でした。ここなら毎日でも通いたい居心地の良い空間です。お時間もあるので、次なるスポット『新明神社』へとまいりましょう。駅からほぼほぼ真っすぐ歩くこと15分、集落の高台にある新明神社の境内からは自然豊かな伊賀盆地の山々が見渡せます。 ミニ・ハイキングもしたので、お腹が空いてきましたね。お昼は、地元で人気の伊賀牛などを提供する『伊賀牛焼肉ホルモンまさチャン』で、伊賀牛焼肉定食をいただきました。素材はバツグンで、しかもボリューム満点。そして価格は、1,499円と東京ではあり得ないお値打ち感ですねぇ。


お腹もいっぱいになり、腹ごなししなくてはと、次の駅『柘植駅(つげ)』に向かいました。ここでは由緒ある寺社を巡ります。まず最初は『徳永寺』を訪れました。本能寺の変により家康が堺から岡崎に逃れる際、福地氏を中心とする伊賀衆に守られ、この寺に立ち寄ったとされています。そんなわけで、建物の随所に『葵の紋』が見受けられます。もう一つは、『都美恵神社(つみえ)』です。都美恵は柘植の古語で、伊勢神宮と深い縁があり、境内には伊勢神宮逢拝所が設けられています。
いよいよ、最終スポット『亀山駅』にまいりましょうか。亀山は東海道53次のひとつで、伊勢亀山城のあった城下町でもあります。まずは、旧東海道を横切り、なだらかな坂を上り、亀山城址へと向かいます。そこには、高さ13m石垣の上に立つ亀山城の唯一の遺構『多門櫓』があります。亀山のシンボルで、桜の頃が最高と云われていますが、初冬の風景もなかなかでした。このあと隣りにある、旧西出丸跡に鎮座する『亀山神社』でお参りをして、城址公園を巡りました。レイアウトが良く、遠景もステキで、古城が脳裏に浮かび上がってくるようでしたね。そして、最後のスポット『遍照寺(へんしょう)』を訪れました。ここは、六地蔵と石仏と併せて咳・歯痛の神様である『ハクサさん』が祀られているユニークなお寺です。山門からの遠望も趣がありました。
日程の都合で、全駅は下車できませんでしたけど、その他の駅にもたくさんのスポットがあります。みなさま是非訪れてみてはいかがでしょうか⁈

