葉山のブランドイメージは、海辺のリゾートと高原のリゾートとの違いはあるにせよ、軽井沢のそれと似ているような気がする。「軽井沢に行くだけでファッショナブル」なわけだし「葉山にいるだけで、ただそれだけで素敵」なのである。古くから多くの作家や文化人に愛される別荘地であるという点も同じ。鉄道の駅のない葉山。車をのぞいて路線バスに乗らなければならない。平日は静かな海沿いの街なのに週末や夏のシーズンになると車は渋滞し様子は一変する。季節はずれの冬晴れの日に地元の人と交わす風向きのことや波の話など何気ない会話はなぜか心が和む。だからなのだろうか、この地に憧れ都会から移り住む人々も少なくない。
サザンオールスターズの歌にもでてくる「日影茶屋」をはじめ、海を見わたせるレストランや老舗の日本料理店など魅力的な店が多い。かつて料理旅館として今は日本料理店として創業以来三百四十余年もの伝統を守りつづける葉山日影茶屋。ここでは景色を楽しみながら相模湾で獲れた新鮮な海の幸と旬の素材をふんだんに使った会席料理を楽しむことができる。鐙摺(あぶずり)海岸にせり出す形で建っているのが「ラ・マーレ・ド・茶屋」。白いテラスふうの洋館は南フランスを思わせる。
海沿いに建つ白い瀟洒なホテル「ホテル音羽ノ森」は、すべての部屋が海に面している。ベッドに横たわりながらバルコニーから流れ込む潮風を浴び、夕暮れ時にはグラデーションを描きながら淡い紫色から濃い色へとかわりゆく「空と海」とを眺められる。フレンチの夕食をすませたあとはカウンターバーで行き交う船や港の灯りを遠くに眺めビックス・バイダーベック(編集部・注)を聴きながらノンアルコールカクテルを飲んで過ごすという至福の時間が待っている。わたしの「葉山スタイル」は二十年近く変わっていない。旅というより葉山で数日暮らすみたいな感覚なのかもしれない。
今日もいつもどおり海沿いのルート134を東京にむけ車を走らせている。BGMはもちろん波の音・・・
(編集部・注)ジャズ界屈指の神童であるコルネット奏者。