韓国・ソウルを訪れた。周りには、こんな時期に? と心配してくれる者もいたが、”こんな時期”だからこそ行きたいと思った。見て来たのは、隣国の普通の人たちの普段着の暮らし。B級グルメの店で「マシッソヨ(おいしい)」を連発し、「セウォル号」事故の追悼広場では国中が受けた痛手の深さに触れ、言葉を失った。パワースポットで一心に祈るオモニ(母)らの願いは日本の親たちと少しも変わらないようだった。最新の韓国の旅を2回に分けて連載する。まずはソウル見て歩きから。
旅のきっかけは、韓国の全国紙『ソウル新聞』が2013年暮れに日本で創刊した月刊タブロイド紙『テソロ』の人気連載記事、「韓国B級グルメ紀行」。筆者は、ソウル新聞論説委員のソ・ドンチョルさん(53)。専門は文化財担当だが、同時に、これまで足を踏み入れた国内の人気店は千店を超えるという〝食通記者〟でもある。
そのソさんがソウル市内の知られざる見どころとB級グルメ店の案内役を買って出てくれたと聞いては、張り切らずにはいられない。
成田発のアシアナ航空は、8月12日までの期間限定で超大型機A380(495席)が就航中。期間中に用意されているビジネスクラスは〝空飛ぶホテル〟そのままの快適さだった。
ソウル市内に入ってまず訪れたのが、北漢山の麓にあるパワースポット、玉泉庵。高さ5㍍の磨崖坐像の観音様は700年以上前の高麗時代の作。白いお顔の気高さに心が静まる。
市中心部、市庁前のソウル広場は、「セウォル号」沈没事故の犠牲者を追悼する黄色いリボンの洪水だった。一枚一枚にペン書きで「安らかにお休みください」「大人たちが過ちをして、ごめんなさい」などのメッセージ。中に日本語で書かれたリボンもあって「韓国が早く元気になりますように」とあった。
この日はたまたまW杯サッカー韓国対ロシア戦の当日。同公園から街なかに移した応援会場には数千人のサポーターが集まっていたが、どの顔にも熱狂は見当たらず、悲劇が国民の上に重くのしかかっているのを感じた。
地下鉄弘済(ホンジェ)駅近くのケミマウル(アリの村)を散策する。古い軒並みは、日本で言えば〝昭和レトロ〟の村か。4年前、近くの大学の美大生らが環境美化のために描いた壁画が大評判に。多くの市民が訪れ始め、映画のロケ地にまでなった。なかでも一番人気は「笑う犬」のアートだ。
巫堂(ムーダン)は神や霊の言葉を伝え、その力を借りる土着信仰。耳をつんざく打楽器の音に合わせて激しく踊りながら神がかりになっていく巫女(ムニョ)。その前で依頼者たちは深々と頭を垂れる。願い事は、厄払い、死者の供養、家内安全、合格祈願、恋愛成就…。ささやかな幸せを願う庶民の心に国境は関係ない。この後訪ねた仁王寺でも、長い時間、微動もせずに祈る女性の姿があった。
もう一つのテーマ、B級グルメまでは筆が及ばなかった。続きは次回のお楽しみということで、アンニョン(またね)。
ガイド
あし
成田空港―仁川空港はアシアナ航空で約2時間半。仁川―ソウルは約50分。
テソロ
ソウル新聞ジャパン発行の日本語情報紙。タブロイド判約36㌻、月刊。日韓両国間の相互理解、交流を目指す。創刊半年で1万部。無料紙だが、定期購読希望者は名前、ヨミガナ、郵便番号、住所、電話番号、テソロを知ったきっかけを書いて、tesoro@seoul.co.kr またはファクス03(5251)3122へ。送料など年間1850円の実費。
ただいま
こんな関係は間違っている。日本と韓国。それを言っちゃおしまいよ、という言葉をぶつけ合っては互いに深く傷付き、一層隔たりを大きくする。熱くなった頭の先で考えず、まずは素顔の相手をまっすぐに見ること。ここから出直すしかないと思う。