田中 哲夫

年に数回、児童生徒と一緒に社会科見学や修学旅行の研究授業として同乗する。昭和32年にヒットした「東京のバスガール」そのままに、ビルの街から山の手へと車窓が流れる。「バス旅」と言えば、学生時代の修学旅行やスキーの夜行バス、盆暮れの故郷への帰省バス、あるいは職場の慰安旅行などを思い浮かべる方も多かろう。

昭和34年秋、芦ノ湖畔を走るボンネットバス

旅費の軽減を図るために高速バスの利用も盛んであり、高速道路網の拡充によって全国ネットに近づきつつある。震災にも強く、東日本大地震では、いち早く市民の脚として復興への礎ともなっている。

南オーストラリア州・カンガルー島、野外研修にて

バスの営業マンに聞けば、やはり学校や募集旅行などでの利用が多いとのことだ。新聞紙面を賑わしているものは、やはりバス旅が多い。ビックリ○○と、売りは価格の安さと利便性だ。石油価格の高騰がバス代の価格に影響を与えているかと思えばそうではない。規制緩和により、多くのバス会社が誕生し、数の上では競争が激化している。

販売価格が低迷し、燃料の高騰でバス会社の経営状況は厳しいところが多く、航空会社のような燃油サーチャージも徴収していない。誰もが知る著名なバス会社が一つ二つ消え、地方鉄道マニア同様、バスマニアも寂しい思いをしている。

伊豆半島を走る東海バス

環境や高齢化社会を考えると、バスは人々や環境に優しい。環境への負荷を考えるとマイカーの利用を控え、バスへの移行は避けて通れぬ問題である。一人の人間を1㌔運ぶのに貸切り観光バスの二酸化炭素の排出量は、航空機の約27%、乗用車の約18%、フェリーの33%と地球温暖化にストップをかける大きな戦力となる。

自治体では路線バスが交差点に近づくと青信号に変わり渋滞を避けて通れるようなシステムを導入している所もある。観光バスも同様な改善を図ることができないであろうか。

日本一長い路線バス、奈良-新宮を結ぶ奈良交通バス

日本人の「バス旅」初体験は、多くが小学校での社会科見学や遠足であろう。新聞掲載の募集旅行でも昨今は、温泉地をはずして国会議事堂や裁判所、自動車工場や食品工場を訪れるツアーがよく見られるようになってきた。行程そのものは、まったく児童の社会科見学コースである。

さすがに昼食場所だけはホテルバイキングなどが取り入れられているが、小学校の高学年が実施する行程である。日本のバス旅の原点はこの社会科見学にあるようだ。三学年になると「私たちの○○市」と自身が所在している市区町村を学びながらバスを使って郷土を巡る。

「せき婆さんの一本松」、「伊興の七曲り」、「高木名主屋敷」と一般人が聞いても解からない訪問先を8、9才の児童が探訪する。歴史研究者レベルの行程を児童たちが楽しく巡っている。これらの情報を旅行社が取り入れ、大人の社会科見学が実施され、各種の出版物も発刊され一つのブームになっている。

熊野川に沿うと、ようやくにして新宮が近づく

「バス旅」は仲間が集まらないと出発できない。60人乗れるバスに1人で乗っても空いた座席が寂しく思える。地域の町会でバス旅のお誘いがあるが、その地域に親しみ、同じ目的意識を持った仲間が集まらないと旅立てないのが「バス旅」である。

近所付き合いの希薄な地域、子どもの少ない地域、元気なお年寄り、世話役のおばさんがみられない所には「バス旅」が生まれることは少ない。皆さんの街からは「明るく明るく」バスが出発していますか?

田中 哲夫