2019年度、第11回「旅の日」川柳には多くの方々からご応募をいただきました。地域は北海道から沖縄まで、年齢層は中学生や90歳近いご年齢の方からも届いています。皆様、ありがとうございました。椿山荘で開かれた「旅の日」の会において発表いたしました。
応募は1月1日に開始して3月15日に締め切り、大賞、優秀賞、鹿沼賞、入賞の各作品が決まりました。合せて57句。最終選者の江畑哲男さんの講評とともに、一挙発表いたします。
また今回も観光庁の後援が得られたほか、一般財団法人休暇村協会と栃木県鹿沼市の鹿沼商工会議所からはご協賛をいただきました。
HPの紙上を借り、あらためて御礼申し上げます。
大賞、優秀賞、鹿沼賞、入賞の各作品が決まりました
(敬称略)
【大賞】
青年となって夫の独り旅 小幡由美子(群馬県甘楽町 女 61歳)
【優秀賞】
旅人になれと一〇連休が言う 住野次郎(兵庫県宝塚市 男 73歳)
働き方変えてと旅にあおられる 鍬田美奈子(熊本県熊本市 女 66歳)
旅行中だけは何だかいい夫婦 せとか(岡山県岡山市 女 53歳)
三日目は少々荒れる夫婦旅 山田明(千葉県印西市 男 68歳)
対局のようにプランを睨み合い さごじょう(愛知県清須市 男36歳)
【鹿沼賞】
行き先が渋くなったと妻笑う 澄海(愛知県清須市 男50歳)
【選評】 愛されてこそ川柳
【選者】
(一社)全日本川柳協会副理事長
獨協大学オープンカレッジ講師
江畑 哲男
今年の投句者は二七三二名。投句数は六六一七句に達した。事務局によれは、昨年よりも数が減少したとの報告があったが、いわゆる公募川柳で五〇〇〇句以上の投句数は誇ってよい。しかもその数値を、毎年のようにキープしているのは立派である。経験上からもそう思う。
ご投句された皆さんと、関係各位のご努力にまずは心からの御礼を申し上げたい。有難うございます。
私事で恐縮ながら、この三月に入院手術をした。入院は一週間ほどであったが、何しろ人生初めての手術。生来弱虫な小生には、不安いっぱいの一週間であった。
その入院中に思ったこと。「川柳があってよかった。川柳に救われた」と。
何しろ、川柳は手軽である。いつでも、どこでも、誰もが作れる。それが川柳である。紙と鉛筆さえあれば、それこそベッドの上でも作れるのだ。
実際に入院中の小生は、初体験の手術を、前後の不安な胸中を、川柳に託した。五七五にぶつけていった。一週間の入院中に作った川柳は、一〇〇句をゆうに超えた。という訳で、創作文芸としての川柳の魅力と長所を、改めて感じ入った一週間であった。
「いつでも、どこでも、誰もが作れる。それが川柳である」、小生はこう書いた。そう、その手軽さゆえに川柳は皆さんから愛されている。
川柳は口語で作る。ふだん通りの言葉(=話し言葉)で作れる。川柳に切字は要らない。季語も必要ない。川柳に必要なのは、五七五を基調とするリズムだけである。それゆえ「いつでも、どこでも、誰もが作れる」のである。
その一方で、注意をしていただきたいことがある。手軽なだけに、安易にならないこと。口語であるだけに、日常よく親しまれている言葉で作るだけに、違和感があってはならない。「しっくり感」が俳句や短歌以上に求められるのではないか。
語彙や語順はもちろん、助詞(てにをは)に至るまで、細心の注意を払って欲しい。容易に作れるのと、安易に作るのとでは、天と地ほどの違いがある。手軽な創作文芸は、お手軽に作って終わり、ではないのだ。安易な作品は人口に膾炙しない。皆さんに愛されることなどない。作りっぱなしにしないで、ぜひぜひ推敲を重ねて欲しい。
この点、入賞作はいずれも「愛される川柳」となっている。詳しくは選評に譲るが、いずれもやさしい言葉で深い内容を盛り込んでいる。そう、この「やさしい言葉で深い内容を盛り込んでいる」点が、川柳の愛される所以なのである。
川柳六大家の一人・川上三太郎はこういう言葉を残している。
《 句は
触発であるが
即製では
ない- 》
「愛される作品」には、深さが求められるということなのであろう。右の箴言を噛みしめながら、選評に代えさせていただこう。
有難うございました。
大賞(一句)
青年となって夫の独り旅 (小幡由美子)
哀しいことに、人は歳をとる。かつて青年だった夫もすっかり年老いてしまった。
ところが、今日の夫はどうであろうか。今回の独り旅に際しては、あたかも青年のようにいきいきとしているではないか。そこを「青年となって」と作者は表現した。句姿も凜として清々しい。
優秀賞(五句、順不同)
旅人になれと一〇連休が言う (住野次郎)
二〇〇年ぶりの皇位継承に伴う伝統行事と併せて、今年は超大型のゴールデンウイークとなった。前回の改元時とは違って、明るさや若々しさに溢れている。
さて、この一〇連休をどう過ごすか。ポジティブな姿勢を促されたり、「旅人になれ」と勧めてくれるのは、あながち商魂だけでもなさそうだ。
働き方変えてと旅にあおられる (鍬田美奈子)
「働き方改革」が叫ばれる昨今である。そのこと自体は歓迎すべきことなのだが、生来の働き蜂には馴染みにくい現実があるのかも知れぬ。
作者はそこを「旅にあおられる」と詠んだ。ココは「働き方」を考え直すチャンスでもあろう。川柳は、自分を客観視できる機会にもなるし、その点もまた有り難い長所である。
旅行中だけは何だかいい夫婦 (せとか)
この素朴感がよい。「旅行中だけは」という率直な感慨も、読者の皆さんの共感を誘うに違いない。
そう、旅行中くらいはケンカなどせずに、「いい旅行」「いい夫婦」でいたいものである。
三日目は少々荒れる夫婦旅 (山田明)
夫婦旅のもう一方の現実を、この句は詠んでいる。リアルな実感は読者の苦笑を誘う。前掲作は、「旅行中だけは」「いい夫婦」と詠んだ。こちらの作品では、「三日目は少々荒れる」と詠んでいる。どちらも頷ける一句だ。
してみると、夫婦の旅行というのは、二泊三日がせいぜい(笑)ということになるのだろうか?
対局のようにプランを睨み合い (さごじょう)
「対局のように」がすばらしい比喩である。いくつかの旅行プランを比較検討する様子が目に浮かぶ。あたかも将棋の対局のようであり、睨み合って検討しているのだろう。そう、この場合の「睨み合い」という下五が適切的確な表現となっている。
鹿沼賞(一句)
行き先が渋くなったと妻笑う (澄海)
思わず笑ってしまう一句だ。
今まで行ったことのない遠い遠い旅行先、豪勢で贅沢三昧の旅行プラン。そんな旅に憧れていたのは、バブル期の自分であり、半分青い自分であった。
現在は違う。少~し渋めのプランを好む自分がいる。愛妻はそばにいて、そんな自分の変化を温かい目で見守っている。
【入賞作品】
(五〇句、順不同)
出国税そのうちトイレも使用税? SHI(兵庫県)
侘びと寂ナビは要らない一人旅 我楽句多(京都府)
君生きた町の空気を吸いに来た 三浦博忠(愛知県)
フルムーン流行った頃は若かった 岩瀬和子(東京都)
旅先を舌で覚える食いしんぼ 肥後幸男(鹿児島県)
インスタにあげない私だけの空 光勢瞳(山口県)
足腰に伺い立てて八十路旅 池田泰子(東京都)
露天風呂心も脚も伸びている 坪中駿(東京都)
バスガイド私のためのこもりうた 櫻井美香(東京都)
地球儀を回して果てのない旅路 大河原伸昭(栃木県)
夜行バス乗り換えなしと子は言うが 綾部保知(茨城県)
乗り鉄の子に窓際の席譲り 延沢好子(神奈川県)
一人旅必ず向かう恋愛祈願 佐藤篤志(静岡県)
ロボットの案内を聴く旅の宿 スリー・グッド(福岡県)
ストレスをまあるく飲んで旅の宿 猫柳(鳥取県)
復興の気力をもらい帰る旅 岡山凡夫(岡山県)
水着ある?ハンガリー湯でチェックされ 湯浅弘(静岡県)
青春の廃線探すひとり旅 新井三一子(栃木県)
旅先のここで出会ったうちの親 麻野渉(三重県)
おみやげを自慢しながらくれる母 仲儀さち(兵庫県)
仕切り屋に仕切られ旅が箇条書き 佐千(愛知県)
食べ歩き行儀悪いと子が注意 多賀二郎(愛知県)
名物に吸い寄せられる妻の旅 すみれ(愛知県)
無言でもなんだか楽し夫婦旅 中村裕子(愛知県)
wifyを探して歩く旅の土地 フーマー(愛知県)
何となくスタンプ欲しいパスポート モト(愛知県)
川の字が丸くふくらむ旅ごはん 岩中幹夫(岡山県)
旅先でスマホ封印いいもんだ 岩田桂子(岡山県)
そこ行った旅番組に話しかけ 工藤杞憂(岩手県)
生活の苦労は撮らぬ雪景色 かきくけ子(岐阜県)
母の旅みやげを買いに来たような 春田さき(京都府)
行く前にグーグルアースで下見する 藤本祐太(京都府)
こんなにも笑う人だと知った旅 かりんとう(京都府)
美人湯の女将美人という期待 ヒロ君(群馬県)
終活を終えて平成旅に立つ 種田潔(広島県)
ローカル線英語のようなアナウンス 白石静次(埼玉県)
月曜が追いついてくる旅の帰路 前田千文(三重県)
撮り鉄のパパを残して汽車は出る 畑山久夫(三重県)
缶ビールつまみは富士の雪化粧 関口徹夫(神奈川県)
枕投げ叱るは野暮と知る教師 かぎろひ(神奈川県)
寝台が廃れて朝湯店じまい 平井正志(神奈川県)
旧友が皆あの頃に戻る旅 コマネチ(石川県)
故郷と反対に行く旅列車 春雷(千葉県)
通勤と旅では違うレール音 紫苑(千葉県)
日常を離れて気づく親の老い 小篠映子(東京都)
旅先で習った歴史の主人公 恒松(東京都)
美人の湯待てども待てども妻が出ず まきまき(東京都)
ゆかた着て少し外股外国人 チョウピン(栃木県)
御来光見知らぬどうしがハイタッチ 木原博子(兵庫県)
失恋を忘れるはずが荷を忘れ 七つの星(北海道)