第13回「旅の日」川柳 入賞作品発表

2703名という昨年を上回るご参加をいただきました第13回「旅の日」川柳。厳正なる審査を重ねた結果、入賞作品が決定いたしましたので発表いたします。入賞作品に続き選評も記載しておりますので、併せてお楽しみください。

【大賞】
蟹とだけ濃厚接触旅の宿 岩中幹夫(岡山県玉野市 40代)

<大賞受賞者よろこびの声>「旅の日」川柳は5年以上前から応募していて、第11回に「川の字が丸くふくらむ旅ごはん」という作品で入選をいただきました。今回はそれ以上の大変な賞をいただき、とても驚きました。この句は、以前、山陰旅行で食べた蟹がとても美味しかったな、と思い出しながら詠んだものになります。コロナ前は年1回の家族旅行を楽しみにしていました。近場への旅行に賞金を使わせていただき、地元の食材と「濃厚接触」したいと考えています。本当にありがとうございました。

【優秀賞】
VR家の中でも旅気分 平岩美留(岐阜県川辺町 10代・中学生) 

仮想旅湯気が恋しいオンライン 岡倉千枝子(福井県坂井市 60代)

文豪が愛した旅館でワーケーション 川端雪国(新潟県新潟市 40代)

美人の湯全集中で妻浸かる マキバオー(東京都稲城市 60代)

船の旅百万画素の天の川 連雀くらら(神奈川県横浜市 10代・大学生)

【乳頭温泉郷賞】
乳頭温泉郷賞に選ばれた句は、過去に同様の句がある『暗合句』だったことが選考後に判明しました。
そのため先行句を優先し、受賞を取り消します。
先行句は「一センチ伸びた気がする旅の宿」です。

【入賞作品】(五十四句、順不同)

コロナ禍の日本一周地図の上 金子政子(千葉県)

満腹を通り越してる旅の膳 内海登志子(大阪府)

醍醐味は知らない駅で降りる旅 長橋あや(東京都)

コロナ後に絶対行くぞハネムーン チョコ(愛知県)

駅弁が旨かった駅今は無人 渡辺章良(岐阜県)

出張と見せかけ実は旅してる もんぶ(京都府)

雪見風呂月に見られて恥ずかしや 髙梨英子(栃木県)

しばらくは大手を振ってひとり旅 平井節子(岐阜県)

シールドでしぶきを受ける舟下り 髙田仁(神奈川県)

ワクチンの代わりにしたい湯治旅 三宅亜紀(神奈川県)

湯けむりであなたの顔が若く見え 古山たかし(宮城県)

スマホ置きバッグに地図と時刻表 村田千賀子(東京都)

GOTOが終わって本当の旅に出る 畠山治夫(秋田県)

老いの旅薬の山に支えられ 大畑秋子(岩手県)

旅カバンいつかいつかの出番待ち 鈴木由香(埼玉県)

かしましい主婦ら黙々旅の空 山口絹代(大阪府)

ここいいね今度の旅にふせんつけ おがらいと(宮崎県)

旅先は五感活躍若返り 荒木志保(北海道)

日常という雲消えて旅の空 一空(千葉県)

ソロキャンプ月が恋人星が友 洒落(兵庫県)

テレワーク出社する日はプチ旅行 延沢好子(神奈川県)

今年こそ旅の期待も二年分 ボケナス(山形県)

仲良しも離れ離れの旅の宿 木村尚子(兵庫県)

コロナ明け待って予習の旅番組 上農多慶美(石川県)

県境跨がず楽しむ旅の空 盛合修子(三重県)

回り道日常までも旅気分 朝日漣(岐阜県)

ユーチューブ私を旅に連れてって ゆず(兵庫県)

家ごもり付箋だらけの旅雑誌 しんちゃん(埼玉県)

三密の心配いらぬひとり旅 角森多久哉(島根県)

テレ会議背景だけは旅気分 カゴメ(奈良県)

言わないが行ったとバレるSNS 森愛和(兵庫県)

ワーケーション手が届きそう空の星 もふもふ(千葉県)

お土産は少し余分に買っておく 上田永泉(京都府)

久々の通勤電車旅気分 あけび(東京都)

「GoTo」に背中押されて夫婦旅 まっちゃん(北海道)

役立つのは語学力よりクソ度胸 澤畠周子(茨城県)

旅3K「きれい」「食いてぇ」「気持ちい〜」 王盛望夢(山梨県)

応援と言ってお土産買い漁る 亜麻布みゆ(福岡県)

NO密でインスタ映えの景勝地 風信子(東京都)

リモートの背景変えて旅気分 和島(大阪府)

旅人に問われ郷里の良さを知る ばんちゃん(愛知県)

バスタブを濁らせ秘湯の旅気分 タドコロヨシオ(東京都)

戦いのない旅させたい炭治郎 きじとら(福岡県)

卓球で浴衣汗ばみまたお風呂 駒木美穂(東京都)

今はない村の名前の案内図 しろふくろう(栃木県)

湯の宿は心のマスク外す場所 山岡一尚(東京都)

湯けむりに皺を溶かして女旅 ぴょこ(香川県)

経験則夫婦喧嘩を旅救う 杞憂くん(岩手県)

別腹の誘惑多し旅の空 futon(高知県)

しゃべれない窓全開のバスツアー 中村豊(兵庫県)

自粛時も「きぼう」は宇宙旅してる 磯けい子(栃木県)

次のバス来るまで雲を見てる旅 石川まち子(兵庫県)

旅ゆけば〜アクリル板にエタノール じゃすみん(和歌山県)

ネットでは味わえませんおもてなし かんしゃ(茨城県)

【選評】

不要不急というモノの価値
(一社)全日本川柳協会副理事長・麗澤大学オープンカレッジ講師
江畑哲男

コロナ禍二年目の春を迎えた。気が重い。憂鬱である。しかしながら、この間私たちはコロナ下でさまざまなことを学んできた。

その①。人間は「食べて寝る」だけの暮らしでは満足出来ない、ということ。「不要不急」という四字熟語をよく耳にした。耳にしている。「不要不急の外出を控えよう」といった文脈で現在も使われる。コロナ下では、生活に関わる緊急で大切な営為と、不要不急のそれとに区別をされた。その別をわきまえて行動せよ、というのである。

川柳などの趣味は、もちろん「不要不急」のシロモノだ。その代表格(!)と言っても過言ではない。なくても困らない。あっても別に腹の足しにならない(笑)。 この一年、少なくない高齢者が言葉は悪いが「食っちゃ寝」の生活を強いられてきた。自粛・巣ごもり・籠城期間を耐えてきた。そうした我慢生活のなかで「川柳の魅力を再認識した」という仲間が多くおられたのだ。

「川柳で元気を貰いました」、「川柳がなかったら、耐えられなかったでしょう」、「川柳のお陰でメリハリのある生活が出来ました」等々。

そんな嬉しい声をたくさん頂戴している。さらには、この期間に初めて川柳に触れた、川柳の魅力に目覚めたという方も現れた。嬉しかった。

「食べて寝る」というのは人間の生活の基本である。その一方で、人間は「食べて寝る」だけでは満足は出来ない。この点もハッキリしてきた。「食べて寝る」以外の「何か」が私たちには必要なのではある。たとえそれが「不要不急」のシロモノであったとしても。

その②。あるお婆さんが小生にこう呟いた。「テレビが嫌いになりました」と。理由を聞けば、「テレビは他人の悪口ばかり言っているから」と。ナルホド。緊急事態に関する法体系が整っていないわが国では、「良識」をほぼ唯一の頼りとして感染症対策が進められてきた。圧倒的多数の国民は決まりをよく守り、マスク・うがい・手洗いを励行し、感染症に罹らぬよう自己管理に努めてきた。

ところが、である。中にはそうではない御仁もおられる。ココが民主主義の泣きどころ。強制力を伴わない政治体制下では、どうしてもはみ出し者が出てしまうのだ。

ワイドショーに代表されるテレビでは、得てしてこうした例外の方を面白おかしく取り上げる。「誰か」を「悪者」に仕立てて映像に晒し、お茶の間に届ける。視聴率のためには平気で煽ったりもする。「悪者」は、あるときは若者であり、政府や役人であったり、パチンコ屋や飲食業者であったり、いろいろである。

くだんのお婆さん。そんな報道姿勢に嫌気がさしたらしい。自身の嘆きを小生に訴えてきたのだった。

さて、川柳。改めて、川柳の魅力。

人間という何とも不完全な多面体を、自由に気ままに言い表そうとするのが川柳だ。ヤンチャで、人間味あふれる口語定型詩である。

こういう時代だからこそ、人間を大切にしたい。こういう状況下だからこそ、川柳のような文芸が輝いて見える。川柳的発想と表現が求められている。そんな
気がしてならない。

さてさて、第13回「旅の日」川柳。事務局に聞けば、前回より多い2703名もの応募があったという。有り難うございます。

その中から厳選した入選句を次に掲げた。旅とコラボした川柳を存分にご賞味いただきたい。

●大賞(一句)

蟹とだけ濃厚接触旅の宿 (岩中幹夫)

「濃厚接触」。コロナ下の流行語の一つ。人間同士はダメ。でも、蟹を食べるときは仕方ありませんよね。作者は茶目っ気たっぷりにこう主張する。ユーモアのお手本のような大賞作品である。

●優秀賞(五句、順不同)

VR家の中でも旅気分 (平岩美留)

素直な一作。こういう叙述も良い。「VR」はヴァーチャルリアリティの略。機械にも略語にも強い作者だろうか。家の中での「旅気分」を率直に詠んだ。

仮想旅湯気が恋しいオンライン (岡倉千枝子)

「湯気が恋しい」、この表現を見つけたところが作者のお手柄だった。たしかに仮想旅では「湯気」は味わえない。湯気は恋しいし、リアル旅の復活も待ち望まれるところである。

文豪が愛した旅館でワーケーション (川端雪国)

「ワーケーション」なんて単語は、昔はなかった。文豪が愛した旅館と聞いただけで、ワーケーションなるものがしたくなる。そう思う。今昔の思いを織り交ぜて、佳句に仕上げた。

美人の湯全集中で妻浸かる (マキバオー)

「全集中」がイイ! 大ヒットアニメ「鬼滅の刃」の台詞から採った。えっ?「美人の湯」に「全集中」で浸かったら効果はあるのか、だって。そんなことは、この際言いっこナシ!(笑)ですよ。

船の旅百万画素の天の川 (連雀くらら)

こちらも中七で決まった。「百万画素」。川柳では、自身の感動にふさわしい、この種の言葉を発見することが大事になる。この句はそれに成功している。