自分なりに見つけた新しい旅の様式、 「山ヲ走ル。」|井上智明

山ヲ走ル

よく聞くラジオ番組で、葉加瀬太郎さんがゲストを迎えての旅に関するトーク番組があります。最後に彼がゲストに必ず聞くのが「あなたにとって旅とは何ですか?」。自分にとってのその答えは「入れ替え作業」です。日頃の生活での自分の中にたまった澱や汚れなんかをいったん全部排出して、旅先で新たな空気や水と入れ替える、そんなイメージ。

3年ほど前、信じられないほど抱えてしまった仕事のストレスの発散のためはじめたのが、山の中を走る「トレイルランニング」。クリアな空気を吸い込みながら思いっきり山の中を駆け回ると、嫌なことも全部汗と一緒にどこかに吹っ飛んでしまって、ストレス解消効果絶大で! 基本的には一人で走っています。その方が没頭できるから。

そして、一人で人ともほとんど会わない山中なら密になることもなく、マスクなしで思いっきり走れる!(マスクは常に持ち歩いていますがね)

主に東京近郊の山々がステージ。陣馬山、御岳山、伊豆ヶ岳、奥日光、箱根外輪山、鎌倉アルプス・・・日曜日に早起きして電車に1~2時間揺られて、スタート地点の駅へ。はじめてのところは迷わず走れるかドキドキしながら、何回か来たところはこれからの楽しみが想像できてワクワクしながら。山なので当たり前ですが、前半はたいてい登り、しかも絶対走れないような急峻な。それでもなるべくファストハイクくらいのペースで、息を切らしながら頑張ります。最初の楽しみは山頂からの眺め。今年の冬は晴天の日曜日が多くて、びっくりするほど美しい富士山を何回も拝ませてもらいました。そして、なにより楽しいのは下りの走りやすいゆるめの下り!最初はけっこう・・・いやかなり怖かったのですが、慣れてくるとスピードに乗って走る爽快さと言ったら!周囲の緑が流れるように過ぎていくのが、思いっきり山の空気を吸い込むのが、楽しくて!

もちろん、登山の人に怖がられないように、声をかけつつ、気を遣いつつ、です。(気が弱いので、強引に抜けずに気づいてもらえるまで待つタイプ)

一人なのでいろんな事件に出遭います。箱根で持って行った水分が足りずに脱水しかけて、神社の手洗い場の水を飲んだり。新潟のトレイルのレースで転倒して一回転して頭から泥水に突っ込んだり。鎌倉で迷子になって2時間くらい同じところをグルグルしたり・・・ただ、今はGPSなしでもスマホに現在地が表示できるアプリなんかもあるので、最終的にはなんとかなるはずですが、そのケータイすら電池が残り1%になって焦りまくったり。

とにかくなるべくリスクは負わずに慎重に安全に、を心がけていますが、何よりこんな時代の、自分なりの旅の楽しみ方を見つけた気がして、ますますのめりこんでいたりしています。

そう、お楽しみは山だけではなくて、「そのあと」ももちろん。行き先を決めるときに重視するのがゴール地点に「温泉はあるか」と「うまいものがあるか」ですから! こういう旅をしなければ出会えなかった温泉や食もありました。鎌倉の稲村ケ崎温泉、日の出町のつるつる温泉、鶴巻温泉弘法の湯で体の疲れを癒して、青梅で何度も通いたくなるラーメン、武蔵五日市で絶品コーヒー、箱根でおしゃれなソフトクリームに感激し・・・やっぱり「アフター」が楽しくないとね! なんて言いつつ、帰りの電車はひたすら寝て帰る、のがお約束。ものすごく疲れることをしているはずなのに、月曜日から密な電車に乗って会社に行き、ほぼ今まで通りに仕事をしてもなんとか乗り切れる、コロナに負けない、そんなエネルギーをもらっているのです。
(井上智明)

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4月の頭に参戦した久しぶりのトレイルのレース、「青梅高水国際トレイルラン」にて。
レース終盤、かなりいっぱいいっぱいの図

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