アートを巡る旅2020|五十嵐英美(新聞記者)

アートを巡る旅2020|五十嵐英美

 昨年3月初め、米国ロサンゼルスを旅した。やめるか直前まで悩んだが、しばらく海外には行けないかも、と思い、決行した。着いた数日はまだ人々でにぎわっていた。しかし、WHOのパンデミック宣言が出て、トランプ大統領が国民向けの演説を行うと、街は一気にコロナモードに変わった。さまざまな意味で思い出深い旅となった。

ロサンゼルスでは二つの美術館を訪れた。ゲッティセンターは、実業家J・ポール・ゲッティがサンタモニカマウンテンのふもとに、約10億ドルをかけて建設した、巨大なアート施設だ。ゲッティと言えば、画像データを提供する会社が思い浮かぶが、もともと一族は石油ビジネスで富を築いたそうだ。

無人運転の専用トラムに乗って山の上の入り口へ。入場は無料。絵画はじめ膨大なコレクション、屋外にも彫刻や庭園が点在し、さすが米国のお金持ちは規模が違うと驚いた。テラスからは、車が行き交うハイウエーと高層ビル群が見渡せた。
もう一つは、ダウンタウンにあるザ・ブロード。やはり富豪の実業家、ブロード夫妻が設立した現代美術館だ。こちらも無料と太っ腹。草間彌生らのポップな作品を集め、人気のようだった。言葉の説明がいらないアート作品は、世界共通の優良コンテンツなのだとあらためて思った。

GOTOトラベル事業が行われた昨年10月には、香川県の直島行きを思い立った。島のアート巡りをもう一度やりたくなったからだ。コロナのおかげで空いていて、ゆっくり見ることができた。地中美術館のクロード・モネの「睡蓮」の部屋が素晴らしかった。ベネッセホールディングス創業家2代目の福武総一郎氏が、モネの大作を据えるために美術館を構想したといういきさつを、初めて知った。日本にもアートに魅せられた実業家がいる。
キラキラする瀬戸内海を眺めながら、なぜここに来たかったのだろう、と考えた。私にとって、旅というのは日常からのエスケープ。自宅と会社を往復し、買い物して食事を作ったり、洗濯したり、というワンパターンの生活から抜け出したくて、旅をする。言い方を変えれば、いつもと違う風景を見たいのだと思う。
一方で、美術作品は、私を未知の世界に連れて行ってくれたり、ハッと気づかせてくれたり、という意味で、違う風景を見せてくれる。「アート+旅」は、二倍おいしいのだと、最近、自覚するようになった。コロナ渦で、その欲求はより強くなったのだと思う。

昨年末は、閉館間近の、東京都品川区の原美術館を訪れることができた。もう30年以上前の大学生の時、なんてかっこいい美術館なんだ! と感動した。その気持ちをもう一度確かめたかった。こちらは、原俊夫館長が、実業家の祖父の私邸を改修し、約40年にわたって、多くの作家を紹介してきた。建物の老朽化のため、今年1月、閉館となった。

常設されていた奈良美智らの作品は、姉妹館のハラミュージアムアーク(群馬県渋川市)に移設されるそうだ。コロナが落ち着いたら行こうと思う。
(五十嵐英美/新聞記者)

TOPの画像
ゲッティセンターのテラスから見えた風景

アートを巡る旅2020|五十嵐英美