板倉あつし

今から8年ほど前、私は小さなラジオ局のプロデューサーを勤めていました。ある日のこと、自局の女性パーソナリティーが番組のなかで「私の住む静岡県富士宮市にはとても美味しい焼きそばがあるんです。腰の強い固めの麺を、キャベツと肉かすで炒めてだし粉と青ノリをたっぷりかけて食べるんです。」

?肉かす?そんなものが旨いハズありません!放送終了後、彼女に「肉かすって何?ボクの聞き間違いかな?だし粉とはどんな粉なの?」と訊ねました。すると彼女は「富士宮の焼きそばには昔から肉の代わりにラードを採った搾りかすの『肉かす』と、鰯や鯖の魚粉の『だし粉』を入れるんですよ」と答えました。

当時からラジオ番組と連動した雑誌に旅行記と食べ歩きを連載していた私は、富士吉田の地粉うどん取材のついでに、富士宮を訪れる事にしました。彼女から教わった「叶屋製麺」を訪ねて取材をお願いすると、製麺屋だから、やきそばの販売はしているが、調理して提供はしていないとの回答。「地元の人は皆自宅で作るのが当たり前だから、いつも食べている当社の麺を推薦してくれたのですね」とニコリ。購入して家に帰ってから作って食べたのではご当地の味は判りません。困っていると、社長さんの同級生が市内でお好み焼き店を営んでいて、そこで旨い焼きそばを提供しているからと、市内を流れる潤井川畔の「うるおいてい」を紹介してくれました。初めて食べた「富士宮やきそば」は想像を遥かに上回る美味しさで、弾力のある硬い麺、甘いキャベツ、噛み締めるとジュワッと味わい深い肉かす、香ばしいタップリのだし粉と紅ショウガが見事にマッチ、今迄食べた事の無い旨い焼きそばだったのです。記事にしてからというもの、友人を伴って何度も「うるおいてい」を訪ねる程のファンになりました。富士宮に出掛ける度にスーパーに立ち寄り、麺、肉かす、だし粉を購入して家で調理するパターンは今でも続いています。

うるおいていの絶品「富士宮やきそば」。この焼きそばこそがB1の始まり!

「富士宮やきそば」の特徴

 富士宮やきそばの命はなんと言ってもその硬さとコシにあります。富士宮市は富士山本宮浅間大社の門前町であり、古くから富士講の霊場である富士山への登山客や、寺社への参拝客が多く訪れていました。また富士宮には身延線の主要駅も存在し、静岡県と山梨県を結ぶ交通の要所でもあるため、太平洋戦争の前後には、山梨県から物資の調達に来る買い出し客や、物々交換で物資を求めて来る人々で賑わいました。

富士宮やきそば

こうした人々の中から、山梨にやきそばを持ち帰りたいという声が高まりましたが、当時の保冷技術と交通手段では山梨に到着するまでに麺が傷んでしまいました。こうした課題を克服するため、麺作りに独自の工夫がなされました。麺を蒸した後、もう一度茹でて仕上げる一般的な焼きそばの製造方法とは異なり、蒸した麺を強制的に冷し、油で表面をコーティング、すると含まれる水分が少なく、コシの強い噛み応えのある麺に仕上がります。富士宮では「蒸しめん」と呼ばれています。

○富士宮やきそば うるおいてい TEL0544-24-7155 ホームページ
○めんの叶屋 TEL0544-23-2940 ホームページ
○富士宮市観光協会 ホームページ
○富士宮やきそば学会 ホームページ

板倉あつし